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ずっと安心を実現するために

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2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる。
そのとき、私たちの社会ではどんな医療が必要になるのか。
LINKEDではこれから複数回にわたり、有識者と対話を重ね、近未来の地域医療について考えていく。
第1回は、在宅医療推進の先頭に立つ、愛知県医師会の柵木充明会長に話を聞いた。


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柵木先生1_2 高齢社会に必要な医療とは何かを考える前提として、高齢者とはどういう人々か、その定義について押さえておきたい。実は日本では、高齢者に関する法律上の明確な定義はなく、一般に「65歳以上」を指すことが多い。しかし、今年に入り、日本老年学会などが高齢者を「75歳以上」に見直すよう提言するなど、その定義は揺れ動いている。
 愛知県医師会会長の柵木充明氏は、そもそも、高齢者を年齢で区切る考え方に疑問を投げかける。「一口に高齢者といっても、健康状態や生活スタイルはいろいろです。同じ年齢でも元気に社会参加している人もいれば、医療・介護サービスを受けながら療養している人もいます。個々に異なる事情を持つ人たちを、年齢層だけでまとめることはできないように思います」。なるほど、そう考えると、高齢者に対する医療についても、一律に論じることは難しいかもしれない。「その通りです。たとえば80代でも、昨日まで元気だった人が急に心筋梗塞や脳卒中を発症すれば、若い人と同じように〈治す医療〉が必要になると思うんです。反対に、まだ60代でも、長く病気療養を続けてきて、回復の兆しが見られない人が急性疾患にかかった場合は、どの治療法を選択すべきか充分に吟味しなければなりません」。高齢者の医療に必要なのは、一人ひとりの症状や要望、背景にある生活環境を踏まえて、適切な医療を選択していくこと。それは、医療の個別化が進むことを意味する。「高齢社会は、多様な医療ニーズが発生する社会でもあります。看取りの医療も含め、個々の患者さんに焦点を合わせた、ある意味、オーダーメイドの医療が必要になるのではないでしょうか」と柵木会長は語る。


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 高齢者一人ひとりに対し、個別性のある医療を追求するなかで、医療の中味も変わっていくのだろうか。現在、医療は、高度急性期・急性期・回復期・慢性期・在宅医療と分かれて提供される。そのうち病院が提供する高度急性期から慢性期までの医療について、柵木会長はこう語った。「高度急性期・急性期の医療は、超高齢社会においてもそれほど変わらないと思います。高齢者だって突然、病気になるわけですから、当然、急性疾患を〈治す医療〉は必要です。中味に変化が生まれるとすれば、回復期、慢性期だと考えます。なぜかというと、高齢になると、どうしても身体の回復が遅くなり、入院によって体力も落ち、元通りの生活ができなくなるケースが多くあるからです。そこで重要になるのが、治療の継続とともに、日常生活動作の維持・向上を図りながら、患者さんや家族の要望に合わせた退院後の生活を設計していくこと。つまり、病院での治療の後を見つめた医療提供ですね。その上で、障害を抱えながらでも、その人らしい生活を取り戻せるように、確実に在宅医療チームへと繋いでいく。そうしたところに、医師や看護師などの医療資源を配置しなくてはならないと思います」。
 これまで病院では、医療資源の大半を、急性期〈治す医療〉に配置してきた。しかし、高齢者が急激に増えていくこれからは、回復期や慢性期〈治し支える医療〉にも、医療資源が適正に配分されることが求められている。



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 病院を退院した後、在宅(自宅や施設)で療養する高齢者には、サポートが必要になる。そこで今、国が力を注いでいるのが「地域包括ケアシステム」だ。これは、介護が必要になっても、独り暮らしでも、住み慣れた地域に生活の拠点を置き、安心して暮らし続けられる地域社会をめざす取り組み。具体的には、高齢者に「住まい・医療・介護・予防・生活支援」の5つのサービスを、包括的に提供する仕組みを構築していく。
 これらのサービスのうち、優先的に整備すべきは何だろうか。「医療は当然として、早急に考えなくてはいけないのが、〈住まい〉である」というのが、柵木会長の考えだ。「例えば高齢者が病気になり、後遺症が残ったとします。病院を退院できても、身近に介護してくれる家族や往診してくれる医師がいなくては、住まいに帰ることはできません。必要な医療や介護を受けられる環境が揃ってはじめて、〈住まい〉なのです」。なるほど、私たちは住まいと聞くと、場所としての住居を思い浮かべるが、ここでいう〈住まい〉とは、単なるスペースのことではない。療養するための機能を備えた住まいである。「自宅であれば、在宅医療・介護のサポートが受けられる住まい。施設であれば、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、介護保険で利用できる施設などが住まいに相当します。前述のとおり、回復期や慢性期の病院が在宅医療チームに繋ごうとしても、〈住まい〉がなければどうにもなりません。ただ、施設は数が限られていて、入居できない人がいるのも事実です」。
 自宅や施設に帰れない場合、これまでは病院の「療養病床」が受け皿となって、長期入院を支えてきた。「言うなれば、医療機関柵木先生2が高齢者の〈住まい〉を肩代わりして用意していたわけです。しかし、国の医療財政が逼迫した今、限られた医療資源を〈住まい〉に使うことは許されません」(柵木会長)。介護療養病床は2017年度末で廃止され(経過措置期間は2023年度まで延長)、その受け皿として、「介護医療院(KEYWORD参照)」が創設されることが決まっている。
 「2025年には、国民の5人に1人が75歳以上になります。そうなると、医療・介護難民(医療・介護サービスの享受に困る人々)が出ないとも限らず、一刻も早い対策が必要です」と、柵木会長は警鐘を鳴らす。

keyword
介護医療院とは…

新たに創設される介護保険施設。長期療養のための介護サービスと医療ケアの提供を目的とし、「生活の場としての機能」も兼ね備える。日常的・継続的な医学管理が必要な要介護者、多様なニーズに対応する日常的な医療管理を必要とする要介護者を受け入れ、終末期のケアや看取りにも対応する。高齢者が寿命を迎えるその日まで、必要な医療・介護を提供する施設である。

 


 
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 在宅においては、〈住まい〉以外に問題はないのだろうか。「いえ、在宅医療・介護の現場にも問題はあります。それは医療と介護の会話不足・連携不足ですね。介護従事者にとって医療者、なかでも医師とは、言語体系が異なるせいか、なかなか気軽に話し合うことができないでいます。それでは、在宅医療・介護のネットワークづくりを進めることはきません」と、柵木会長。その溝を埋めるためには、「医療と介護の知識を兼ね備えた、いわば医療と介護を繋ぐ〈要〉が必要であり、両者の交流を促進させて顔の見える関係づくりを進めることが大切です。また、地域の方々には、在宅医療の相談窓口として、適切なかかりつけ医や介護事業者を紹介することも必要です。但し、こうした活動は短期間で終わっては意味がない。強化を重ね、地道に続けることが大切。愛知県医師会ではそうした取り組みを行っています(COLUMN、参照)。
 「加えて」と柵木会長は言う。「訪問診療を買って出る医師が、なかなか増えないのも問題です」。 訪問診療を担うのは主に診療所だが、個人経営の医師が24時間365日のニーズに対応をするのは限界がある。ではどうすれば良いのだろうか。「期待されるのが、多くの医療資源を抱える地域の病院による、在宅医療・介護事業者への支援と協働ですね。病院は今、医療領域を分担し、病院同士の連携により医療を提供する、地域完結型医療体制の構築を進めています。一方、在宅では前述のように、地域包括ケアシステムの構築をめざしている。この二つが、今は別軸で動いています。そうではなく、両者が融合しないことには、真の意味で高齢社会の地域医療を支えていくことはできません。病院と在宅医療・介護に携わる人々が、組織や立場を越えてチームを組み、高齢者の生活に寄り添うこと。それが〈ずっと安心〉を実現していくために、必要不可欠ではないでしょうか」。
 今回、柵木会長の話を聞きLINKEDが強く感じたことは、患者・地域住民を中心にして、病院、在宅医療従事者、介護事業者が、手を携え情報共有し、超高齢社会の地域医療を創り上げていくことの大切さである。それは既存の価値観や常識にとらわれることなく、推し進めなくてはならない。時間の余裕は、私たちにはないのだから。


 

column

愛知県医師会 在宅医療サポートセンター

県内各地域の在宅医療ネットワークをバックアップするため、愛知県医師会が展開している事業。地区医師会に在宅医療サポートセンターを設置し、下記の役割を遂行している。なお、この事業は、厚生労働省の地域医療介護総合確保基金を活用したもので、2015年度から3年間、実施。その後は、市町村で継続される見通し。

在宅医療サポートセンターの役割



切れ目のない在宅医療の提供をするための調整会議を開催。
医師向けに在宅医療に関する在宅医療導入研修を実施。
地域住民向けに、かかりつけ医制度の普及を促進。
住民や医療機関などから寄せられる在宅医療・介護の相談に対応。

 


 

HEYE

名古屋大学総長 松尾清一/
部分最適ではなく、全体最適の視点の必要性。


愛知県病院協会会長 浦田士郎/
地域医療構想 – 私たち病院関係者に求められる連帯と協同。


日本看護協会監事 中井加代子/
看護の視点は「医療」と「生活の質」。

元厚生労働副大臣 大塚耕平/
前例のない新たな取り組み。

 


SPECIAL THANKS(編集協力)

「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。
(※医療機関名はあいうえお順です)

愛知医科大学病院
愛知県がんセンター 中央病院
足助病院
渥美病院
あま市民病院
安城更生病院
伊勢赤十字病院
稲沢厚生病院
稲沢市民病院
鵜飼リハビリテーション病院
大垣市民病院
岡崎市民病院
尾張温泉かにえ病院
海南病院
春日井市民病院
可児とうのう病院
蒲郡市民病院
刈谷豊田総合病院
岐阜県総合医療センター
岐阜県立多治見病院
岐阜市民病院
岐阜大学医学部附属病院
社会医療法人 杏嶺会
(尾西記念病院・
上林記念病院)

江南厚生病院
公立陶生病院
公立西知多総合病院
小林記念病院
済衆館病院
市立伊勢総合病院
新城市民病院
医療法人社団 誠道会
聖霊病院
総合犬山中央病院
総合大雄会病院
総合病院中津川市民病院
大同病院
知多厚生病院
中京病院
中部ろうさい病院
津島市民病院
東海記念病院
常滑市民病院
豊川市民病院
トヨタ記念病院
豊田厚生病院

豊橋市民病院
名古屋医療センター
名古屋掖済会病院
名古屋記念病院
名古屋市病院局
(東部医療センター・
西部医療センター)
名古屋市立大学病院
名古屋大学医学部附属病院
名古屋第二赤十字病院
成田記念病院
西尾市民病院
はちや整形外科病院
半田市立半田病院
藤田保健衛生大学病院
増子記念病院
松阪市民病院
松波総合病院
みよし市民病院
八千代病院
山下病院
四日市羽津医療センター

 

※読者の皆さまへ
<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局広告開発部とPROJECT LINKED事務局・HIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

企画制作 中日新聞広告局

編集 PROJECT LINKED事務局/有限会社エイチ・アイ・ピー

Senior Advisor/馬場武彦 
Editor in Chief/黒江 仁
Associate Editor/中島 英
Art Director/伊藤 孝
Planning Director/吉見昌之
Copywriter/森平洋子
Photographer/越野龍彦/加藤弘一/ランドスケープ
Editorial Staff/村岡成陽/吉村尚展/國分由香/轟 亮佑
      /安藤十三恵/小塚京子/平井基一/尾崎敦子
Design Staff/山口沙絵/古澤麻衣
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