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一人の看護師として
「感染対策」の重要性に気づき、
スペシャリストになる道を選んだ。

杉浦聖二/岡崎市民病院 感染管理認定看護師


 

main西三河南部東医療圏の基幹病院(三次救急、もしくはそれに準ずる機能を有する医療機関)として、病床数〈650床〉を抱える岡崎市民病院。その広い院内を毎日のように歩き回り、感染予防の環境整備や職員の指導に努めているのが、感染管理認定看護師の杉浦聖二である。「悔しいですが、当院の感染対策はまだまだこれからです」と語る杉浦の、感染管理の活動をレポートした。

 

 

 


岡崎市民病院を、感染対策においても一流の病院にしたい。全職員の意識改革をめざす、「感染管理認定看護師」の挑戦。


 

エビデンス(根拠)に基づく感染予防策を伝え、職員の自発性を促していく。

IMG_1739 「感染はどのように発生するか」「防護用具の正しい着脱方法を知ろう」「細菌について勉強しよう」——これらは、昨年1年間、岡崎市民病院の感染管理認定看護師・杉浦聖二が、各セクションのリンクナース(※)を対象に行った勉強会のテーマの例である。リンクナースは学んだ知識を持ち帰り、セクションスタッフに伝える役目を果たす。杉浦が感染管理認定看護師の資格を取ったのは2年前。最初の1年間は「基礎固めに徹し、現場の核となるリンクナースの教育に力を注いだ」という。
 杉浦は感染対策室の専従スタッフとして配属され、感染対策室長の辻 健史医師を中心に、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務職員らと協力して、院内の感染対策に取り組んでいる。杉浦の主な業務は、大きく分けて四つある。一つは、冒頭で紹介したリンクナースの教育に代表される、職員の教育。二つ目は、施設の環境整備に関わる職員への監査業務。週に1度、感染対策室のメンバーを中心にICTラウンド(巡回)を行い、病棟や外来など各部署のスタッフに改善すべきところを指導している。三つ目は、感染者(発症者、保菌者を含む)発生時の対応だ。臨床検査室から「抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌が検出された」という報告が入ると、直ちに病室へ足を運び、感染予防策が適正に行われているかチェックする。さらに、院内で感染症患者が一人でも出れば、その拡大を水際で防ぐ策を感染対策室で講じている。そして四つ目は、職員からのコンサルテーション業務を行っている。
 こうしたさまざまな活動において、杉浦が大切にしているのは、「エビデンス(根拠)に基づく感染予防策を伝え、職員の自発性を促すこと」だという。「従来は病棟やICUなどそれぞれの部署において、経験則で感染予防策を行っていました。そこに、僕が学校で学んできた最新の知見を持ち込み、なぜマスクやエプロンが必要かといったエビデンスを示して、理解してもらっています」。感染対策は、上から強要できるものではない。杉浦は相手が納得できるように、常に丁寧な説明をすることに心を砕いている。

※リンクナースは、ICTなどの専門チームや委員会と、セクション看護師を繋ぐ(リンクさせる)役割を持つ看護師

ベースにあるのは、手術看護で学んだ清潔・不潔の厳密な管理。

IMG_8602 杉浦が感染管理の道を歩む原点は、入職後から8年間勤務していた手術室での看護にある。1日何件もの手術看護を担当するハードな日々のなかで、杉浦は「清潔・不潔の概念」や「清潔と不潔を交差させない物品管理」を先輩看護師から叩き込まれた。
 その後、循環器病棟へ異動した杉浦は、手術室との衛生管理の違いに驚いたという。手術室の高度衛生管理と病棟の衛生管理は当然違うものだが、「手洗いや手指衛生にしても、あまり徹底されていない。これでいいのだろうか、と疑問に思いました」と振り返る。その疑問を解決するために、杉浦は自らリンクナースを志願し、感染管理に関わるようになった。とはいえ、その当時はICTは活動しておらず、看護局の委員会活動として感染予防に取り組んでいた。
 それからしばらくして、杉浦は上司から「本格的に感染管理を勉強してみない?」と声をかけられる。感染対策は追求すればするほど奥の深い領域でもある。杉浦はこのチャンスを活かし、感染管理認定看護師に挑戦することを決意した。
 教育機関へ進学するための病院側のサポートは実に熱心だった。元感染対策委員長であった堀 光広医療技術局長(臨床検査技師)が杉浦の教育係を買って出て、それから1年半にわたり、疫学、微生物学、感染症学など感染管理の基本知識を教授。その親身な講義のおかげで、杉浦は無事に入学試験に合格し、半年間に及ぶ厳しい教育課程を受けてきたのである。

感染対策の巻き返しを狙うキーパーソンは、感染管理認定看護師だった。

IMG_1795 堀医療技術局長が、そこまで杉浦をバックアップしたのは、理由がある。それは、地域の基幹病院でありながら、感染管理認定看護師が一人もいない状況への危機感だった。以前から、近隣の基幹病院は高度な感染対策を行っているという情報が入っていた。「このままではいけない。なんとかしなくては…」と幹部たちは強く認識していたのだ。
 そんな病院の大きな期待に応え、杉浦は感染対策の先頭に立ち、わずか2年ほどで目覚ましい成果を上げてきた。たとえば、環境整備。「以前はラウンドしても、さまざまな材料が処置台の上に山積みになっていたり、滅菌物が不潔なものと混在していたり、消毒薬の濃度がまちまちだったり、指摘すべき箇所がいっぱいあった」と杉浦は苦笑するが、今ではそのほとんどが改善されている。また、当初は杉浦の姿を見ると「何か言われるのではないか」と身構えていた職員も、「悪いところを見つけて、どんどん注意してください」と前向きに受け入れるようになった。杉浦が院内をくまなく歩いて回ることで、職員の意識のなかに感染対策の重要性が確実に浸透してきたのだ。

将来的には、地域全体の感染対策をサポートしていきたい。

2  ようやく感染対策の基盤が整った今、しかし杉浦は「まだまだこれからです」と表情を引き締める。「当院は近隣の基幹病院と感染対策の連携を取っていますが、どこも非常にレベルが高い。見習うべきところは、どんどん吸収していくつもりです」と話す。
 これからとくに強化したい課題はなんだろうか。感染対策室の看護長・原田幸江は、その一つとして「医師への啓発」を挙げる。現在、感染対策室では、医師を対象に感染対策の勉強会を開催しているが、「多忙を極める医師は、なかなか参加できないのが実情です。防護用具のデモンストレーションなども行っていますが、果たしてどこまで現場で実践できているか…」と案じている。1医師にとっては治療が最優先であり、ともすれば感染予防は優先順位が低くなりがちだ。その意識変革を促すことが、病院全体の感染対策の質を高める鍵になると原田や杉浦は考えている。
 また、地域医療支援病院でもある同院は、地域にある医療機関の支援にも力を注いでいく考えだ。「感染対策で連携する地域医療機関と定期的に会合を開き、問題点を話し合っていますが、どこも人材不足がネックになっています。将来的には、僕たちが連携先の病院内をラウンドして、コンサルテーション(助言)していきたい。そのためにも、僕に続く感染管理認定看護師を育てていかなくては…と考えています」と、杉浦は構想をふくらませる。一般に、感染対策には非常にコストがかかる。感染対策の専任スタッフを配置し、最新の衛生材料を揃えるなど、対策を推進すれば、病院経営を圧迫しかねないリスクを孕んでいる。医療資源の限られた中小の民間病院をサポートすることは、地域医療支援病院である岡崎市民病院の使命とも言えるだろう。
 基幹病院としての地域貢献と並んで、感染対策においても地域を牽引する病院へ。杉浦たちの情熱が、岡崎市民病院をさらにレベルアップさせようとしている。


 

 

column

コラム

●岡崎市民病院の看護局では今年度から、プリセプター(新人看護師の教育・指導を行う看護師)とは別に、「教育担当」看護長を配置。学校教育と現場のギャップを埋めるための指導を行うなど、看護局全体で新人を育てる体制づくりを強化している。

●その一環として、認定看護師らにより新人たちに「看護の最先端」を講義する、専門性の高い教育プログラムに取り組んでいる。これは、現在11名いる認定看護師がそれぞれの専門領域における最新の知見や科学的根拠に基づくケアをわかりやすく講義するもの。まずは今春、杉浦が感染管理について講義しており、順次、全職員に向けて開催していく予定だという。新人にとって、認定看護師は遠い憧れの存在になりがちだが、入職当初から認定看護師の存在を身近に感じ、役割を理解してもらうことで、新人たちのモチベーションアップを促していく計画だ。

 

backstage


バックステージ

●日本の感染対策は、欧米に比べ20年ほど遅れていると言われている。そもそも感染制御の取り組みは1980年代から欧米で進歩し、日本の医療現場はそれを学ぶカタチで取り入れてきた。ここ数年、マスコミでも院内感染の事件が報道されるようになり、ようやく社会的な認識が高まってきたところなのである。

●その一環として、認定看護師らにより新人たちに「看護の最先端」を講義する、専門性の高い教育プログラムに取り組んでいる。これは、現在11名いる認定看護師がそれぞれの専門領域における最新の知見や科学的根拠に基づくケアをわかりやすく講義するもの。まずは今春、杉浦が感染管理について講義しており、順次、全職員に向けて開催していく予定だという。新人にとって、認定看護師は遠い憧れの存在になりがちだが、入職当初から認定看護師の存在を身近に感じ、役割を理解してもらうことで、新人たちのモチベーションアップを促していく計画だ。


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