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病院を知ろう

もっと救急医療の機能を高く。
もっと医療の質を高く。
常に「今」のレベルを超えて。

公立陶生病院


main皆が、それぞれの持ち場で、新しい病院像を思い描いた。そしてプロジェクトは、すべての職員一人ひとりの思いを込めてスタートした。

今から、約5年前。公立陶生病院に、建替構想が持ち上がった。当時、平成11年に竣工した南棟を除いては、
東棟(昭和52年)、中央棟(昭和60年)、外来棟(昭和62年)など、建物、設備の老朽化がさまざまな問題を起こし始めていた。たとえば給排水管の漏水や停電時自動送電装置の不具合など、一歩誤れば治療に支障をきたしかねない事態もあった。さらにここ数年で10億円単位の補修費も必要としていた。建て替えは時間の問題であり、また喫緊の課題ともなっていた。

課題を解決し、地域住民の要望に100%応えるための新病院構想がスタートした。

1 公立陶生病院は、瀬戸市、尾張旭市、長久手市の地域の人々の手によって設立され、地域の人々のために設けられた病院である。そのために、地域住民の期待に応えていくことこそが、もっとも大切であることは言うまでもない。
 現場の医師たちは、地域の基幹病院として、要望に100%応え続けることができているか?救急搬送を24時間365日断らない、しかも一定水準以上の医療を提供し続けることができているか?常にそのことを自問自答し続けた。
 もっと救急医療の機能を高く。もっと医療の質を高く。常に「今」のレベルを超えていく。それは公立陶生病院に課せられた使命でもある。新たな棟を建てるのであれば、その使命をこれまで以上に果たすものでなければならなかった。
 医師、看護師などのスタッフが、それぞれの持ち場で、新しい病院像を思い描き、意見を出した。そして建替構想は、すべての職員一人ひとりの思いを込めて、具体化の道を歩み始めた。
 多くの課題を一つひとつ解決し、地域住民の要望に100%応え続けるための新しい病院構想は、単に新しい病棟を一つ建て替えるだけで済む話ではなかった。
 平成23年1月に始まった第一次プロジェクトは、新たな西棟の建築と既存施設の再整備を含み、急性期医療の中核となる機能を集約し、それぞれの機能強化と効率化・活性化を目的とした。
 さらには平成30年の完成をめざす第二次プロジェクトとして、現状の中央棟、外来棟を取り壊し、新たに新東棟を建設するという、壮大な建替計画が構想されている。まさに、新時代の地域医療を牽引するビッグプロジェクトである。
 そして平成24年2月。いよいよ西棟建設の槌音がこの街に響き始めた。

 

最先端の医療設備と、きめ細やかな効率化の配慮。

2 平成25年末に完成する西棟の基本設計を概観してみよう。地下1階、地上10階、RC造。延床面積は1万8123平方メートル。免震構造を採用し、万一の大きな災害時にも充分な機能を発揮できるよう考慮されている。これは、平成21年10月の愛知県災害拠点病院指定に対応するもので、備蓄倉庫を設け、さらに災害時の救急患者の受け入れが可能なスペースも設けている。ドクターヘリや防災ヘリ発着のため屋上ヘリポートも用意されている。
 1階には救急外来を集約し、その一角にはERICU(救命救急に設けられたICUで、急病、外傷など、危篤状態にある患者を収容する)を配した。2階にはICU、HCUと心臓血管撮影室、3階は手術室、4階が病理部と中央材料室。5階から8階までが病棟になる。地下1階には感染症病棟がある。公立陶生病院は感染症指定病院であり、新型インフルエンザ、SARSなどの感染症の受け入れを想定したものだ。
 高度急性期医療に対応した西棟の手術室は、10室。それぞれの手術室は従来に比して、大幅に面積を拡大した。また1室は内視鏡下手術用ロボット、ダヴィンチを設置し、1室は手術台と心・脳血管X線撮影装置を組み合わせたハイブリッド手術室の導入を想定した仕様とした。現時点で考えうる最先端の医療技術に対応したものである。さらに、手術室の上階に配した病理部では、手術中に腫瘍が良性か悪性かなどを判断したり、胃がんの転移や病変部の取り残しがないかなどについて調べる術中迅速病理組織診断を、さらに積極的に推進する。
 機能の効率化という点で見ると、現状の南棟において、血管撮影室からICUに患者を移送する動線は、フロアも異なり、極めて長い。また、バルーンパンピングなど生命維持装置を装着したままの重症患者移送ともなると、患者の負担も並大抵ではない。この非効率な動線を解消するため、新たな西棟では、各階の救急医療部門を結ぶ専用エレベーターを設置し、重症患者の安全かつ迅速な移送を実現する。
 西棟建設とともに、既存施設の再整備も進められた。平成19年に指定された尾張東部の「地域がん診療連携拠点病院」としての使命を遂行するため、南棟に外来化学療法室およびがん相談支援室を設置した。

 

人が支えた、3次に匹敵する救急医療のレベル。

3 公立陶生病院は、現在、指定上では2次救急にあたる。だが、実質的には3次救急に匹敵する設備機能と人的能力を持ち、地域からの厚い信頼を築いてきた。このため、公立陶生病院は2.5次救急だ、などと冗談交じりに囁かれることもあった。しかし、平成11年、南棟の竣工当時には、救急患者は現在とは比べものにならないほど、少なかった。一つには機構上の問題から、救急外来が夜間のみの稼働であったことにも起因する。
 こうした課題を克服し、「24時間断らない救急」を実現するためには、2年の歳月が必要だった。救急車の受け入れも、この頃から年間5000台を上回るようになり、現在では7000台に達する。ウォークインの来院者も3万人に上る。
 ここまでの道程を支え、公立陶生病院の救急を地域に誇るものたらしめたのは、ここで働く人々の知恵と工夫であった。それこそが、これまでの公立陶生病院のハードウエアに欠けているものを補ったのかもしれない。
 今こそ、この地域が誇る、公立陶生病院の救急にふさわしい設備と機能を与えたい、それが全職員の悲願だった。

平成30年、そのとき公立陶生病院は、地域の真ん中にある。

04 このビッグプロジェクトを牽引する酒井和好病院長は、プロジェクトのコンセプトを次のように語る。
 「公立陶生病院の最終的な目標は、“地域の活性化”です。医療という領域を超えて、病院が地域を動かし、魅力ある地域の核となることをめざします。今、当院があるこの地域だけではなく、地方の中小都市がことごとく疲弊してきています。地方分権という掛け声だけは聞こえるけれども、現実は何も解決されていません。高齢化が進み、第一次産業は衰退し、さらに地域に根ざした産業も伸び悩んでいます。少子高齢化も進み、若者は故郷を離れ、若い夫婦はより便利で快適性の高い街へ移住していきます。人口の減少は止まらず、高齢者だけが取り残された街が日本中に広がっています。この現状をなんとかするポテンシャルを、私たちの新しい病院は持っているのではないかと思うのです」。
 平成30年をめどに立ち現れる新生・公立陶生病院は、大げさに言えば、このような地域の課題と向き合う病院をめざしている。
 このため、次代の地域を支える子どもたちの健やかな成長を見守る病院として、小児医療と周産期医療にフォーカスした機能を整備・強化していく。
 また、公立陶生病院は、昭和57年に医師の臨床研修病院の指定を受けて以来、数多くの優秀な医師を育ててきた実績がある。今も、同院の優れた研修システムや豊富な実績、多彩な症例、何よりも地域の9割を支える救急医療に惚れ込んで、多くの研修医が公立陶生病院の扉を叩く。臨床研修管理室に専任の職員を置いて、研修医と向き合いながら、研修医を育てる環境とシステムを構築している。看護師も同様だ。
 さらに、公立陶生病院の救急医療、がん診療の根幹にあるのは、地域全体で住民の健康と生命を守る地域医療連携である。平成23年には「地域医療支援病院」の承認を受け、その中核としての役割を果たしている。
 公立陶生病院は地域の中心として、多くの人々が集い、交流する拠点になる。公立陶生病院は、多くの人々が健康で安心な暮らしを送る街の象徴でもある。そんな街の魅力に惹かれて、再び若者や小さな子どものいる家族も戻ってくるだろう。
 平成30年、そのとき公立陶生病院は、地域の真ん中にある。

 


 

column

コラム

●公立陶生病院の手術室に設置される内視鏡下手術用ロボット、ダヴィンチは、米国で開発された。平成12年7月にアメリカ食品医薬品局で承認され、日本では平成21年に厚生労働省で国内の製造販売が承認された。平成24年4月現在で国内に40台が導入されている。なお、ダヴィンチは、先進医療としての認可申請はされていたものの、医療費は健康保険の対象となっていなかった。しかし、平成24年4月1日より前立腺がん手術のみ保険が適用されるようになった。

●同じく、ハイブリッド手術室とは、手術台と心・脳血管X線撮影装置を組み合わせた治療室のことで、手術室と同等の空気清浄度の環境下で、カテーテルによる⾎管内治療が可能となる。西棟竣工時にはまだ用意されないが、ハイブリッド手術室対応のため、重量のある撮影装置を持ち込む必要性から、構造を補強し、特別の仕様としている。

 

 

backstage

バックステージ

●西棟では、患者や医師、看護師の移動を迅速化するとともに、より安全で効率的に行うために、患者エリアとサービスエリアを分化した。さらに、一般用エレベーターと業務用エレベーターを分離配置し、患者動線と職員の動線を分けている。とくに地下1階はサービス専用階として物品供給部門を集中させ、病院内で必要とされる物品の供給がスムーズに行われるよう配慮されたものだ。

●これは、患者のエリアなどを限定することで、アメニティや安全を守る側面はもちろんだが、それ以上に医師、看護師らの働きやすさを最優先している。救急医療の現場は、今後も、ますます複雑化し、多忙を極めていくはずである。そのとき、医師や看護師が、つねに冷静に、かつ迅速に行動できるという働きやすさを確保すること。現場の医療に携わる者の視点を重視した設計思想が、公立陶生病院の西棟に息づいている。

 


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