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病院を知ろう

地域のなかでどうあるべきか――。
「信頼される病院」を追い求めた、
医療連携の取り組み。

総合大雄会病院


main「困ったら大雄会へ」。地域の基幹病院としてアイデンティティーを求め、試行錯誤のなかで徐々に確立してきた、医療と介護、生活を繋ぐ試み。

愛知県一宮市近郊の急性期医療を担う総合大雄会病院。同院では、患者とその家族の退院後の生活を入院当初から考え、医療ソーシャルワーカーが主軸となり、円滑に退院調整を進めていく。同院がめざすのは、スムーズな医療連携で、地域住民に安心を提供すること。そこには、「地域に信頼される病院でありたい」という同院の信念があった。

ソーシャルワーカーを軸に医療、介護、生活を繋ぐ。

4 入院中の患者とその家族に降りかかる突然の退院勧告の「悲劇」――。全国の急性期を担う基幹病院では、近年、退院時における「出口問題」が深刻化しつつある。一般市民の目にはまだまだ医療の必要な人が、寝たきりで全面的な介助が必要な人が、退院を余儀なくされる。こうした状況に、患者とその家族が苦しむ事態が各地で頻発しているのだ。
 愛知県一宮市にある総合大雄会病院。同院では「退院」に備え、医療ソーシャルワーカーを軸にしながら、医師や看護師などが協力し、医療から介護、そして生活へと繋ぐ体制を以前から整備。地域の医療・介護施設やかかりつけ医との連携を密に図り、「地域住民がいかに安心して暮らせるか」を追求し続けてきた。
 同院では、退院許可が出る前から患者と関わりを持ち、退院の許可と同時にスムーズに転院や在宅へと移行できる準備を進める。そんな退院調整に尽力するのが、医療ソーシャルワーカーである長尾貴子の役目だ。「以前なら次の行き先が見つかるまで2、3カ月待つことも許されました。しかし基幹病院として高度急性期医療を必要とする患者さまを受け入れ続けるためには、今はそれほど猶予はありません。入院時から退院後を考えて動き出すのが基本ですね」と話す。
 「医師からは『まだ退院の指示を出していないのに』と思われることもあります。ただ、退院と言われてからでは遅い。そこで当院では、入院から48時間以内に『退院調整スクリーニングシート』を作成して積極的にアクションを起こします」と退院調整看護師・水川ひとみ。担当看護師が退院リスクの高い患者を把握し、看護師から医療ソーシャルワーカーへと退院調整の依頼を出す。「早期の調整が必要だ」と依頼を受けた医療ソーシャルワーカーは、患者情報を詳しく調べ、背景、病状の経過などを観察。療養型病院への転院、在宅でのケアなど、退院後の生活を見据えてうまくナビゲーションをしていく。このような動きは、電子カルテとなる以前、紙カルテの時代から続けられてきた。

 

地道な情報収集や定期的な訪問によって地域との信頼関係を築く。

2 退院後の円滑な連携は、医療ソーシャルワーカーの地道な情報収集に依る部分が大きい。年に1度は近隣の病院・施設を自ら訪問。自分の目で見て回り、相談員と直に話して詳しい情報を得るように努めている。何より大切なのは、「顔の見える付き合い」。日頃の地道な活動が、連携の“潤滑油”になっている。
 総合大雄会病院は協力関係にある施設(例えば特別養護老人ホームや有料老人ホームなど)の担当者と年2回の意見交換を実施。今では互いの信頼感も深まり、依頼前から部屋の空き情報のファックスが送信されてくるほどだ。
 また、信頼関係の大切さは、法人内の施設でも同じ。法人内では「病院の介護事業連携協議会」を3カ月に1回開催し、医1療と介護のスムーズな連携を図っている。地域・法人内から信頼を獲得した医療ソーシャルワーカーが主軸となり、ケアの部分は看護師が支える。こうした体制が構築できているからこそ、同院の地域連携はうまく機能している。
 さらに、情報収集の源泉となっているのが、市内の医療ソーシャルワーカーたちのネットワークだ。約30年前に始まった集まりには、現在100名近くが所属。長尾は、この集まりの会長を務めている。急性期病院、介護老人保健施設、地域包括支援センターなど、それぞれの施設で活動する医療ソーシャルワーカーが集うことで、医療圏全体の問題意識や価値観を共有し、有益な情報を互いに得ることができる。これがスムーズな連携に大いに役立っている。

 

地域完結型医療に向けた10年間に及ぶ活動が退院後の円滑な連携の下地に。

3 地域連携に向けた同院の取り組みの背景には、「病院完結型」から「地域完結型」への移行をめざした10年間の活動の歴史がある。
 「当院では、この10年間、地域の基幹病院としてさまざまな施策を講じてきました。『病院は入院、診療所は外来』という連携体制を築くため、それまで実施してきた夕方の診療を廃止。地域の診療所への“逆紹介”を推進してきたのです。診療所からは患者さまをご紹介いただき、その分、自らの病院で患者さまを囲い込まないようにする。この方針をずっと貫き、地域の医師たちからの信頼を積み重ねてきた下地があるからこそ、退院後の円滑な連携が可能になっていると思います」と地域医療連携室室長の村瀬寛副院長は話す。総合大雄会病院では、急性期・回復期の医療領域を担う一方、老人保健施設アウンをはじめとした介護領域の事業所、訪問看護ステーションなどを法人内に持つ。そのため、医療から介護への繋ぎは、同法人の得意とする領域だ。
IMG_6665 「断らない救急」を実践する三次救急の面でも、連携を円滑に進めやすい事情がある。同一医療圏に三つの急性期病院が機能しており、患者が一極集中せず、退院までに時間的な猶予を作りやすいのだ。また、30床の回復期病床があるため、急性期から在宅へと移行するような場合の緩衝機能を果たすことも。さらに、法人内の介護保険領域の事業所や訪問看護ステーションがあることで、看護が必要な患者を在宅でカバーすることもできる。医療から介護への円滑な繋ぎが重要度を増しつつある昨今。同院の存在感は今後もますます大きくなるに違いない。

地域で暮らす人々から信頼される病院をめざして。

IMG_6639 ただ、これからは、単に高度急性期を担うだけでは、地域住民が求める医療を提供するのは難しい。今後は、医療と介護をより包括的に見る目が求められてくる。
 「実際、医師たちのなかでも、退院後への意識にはかなりの温度差があります」と吐露する村瀬副院長。病棟勤務の看護師についても、「医療から介護、そして看取りという一連の流れを理解し、在宅を支援できるようなノウハウを持つ者が少ないのが実状です。625006看護体制としてこの分野を担っていける人材育成をスタートさせています」と看護局長の岩田広子は言う。今後は医師や看護師をどう意識改革していくかが大きな課題だ。
 また、患者を放り出さない仕組みを法人内に有する一方で、それを軸としながら、地域の医療・介護施設との連携をより一層深めていくことも重要だ。法人単体ではなく、地域全体で患者を支える体制をさらに強固にする。これも同院が掲げるテーマの一つである。
 法人内の機能を活かしつつ、医療ソーシャルワーカーが軸になり、地域の関係機関と協働しながら筋道をつけ、すべての職種がかかわり、生活への復帰を力強く支え続ける同院。「困ったら大雄会へ」。そんな存在であり続けるために、同院は「地域から信頼される病院」をめざして今後も歩み続ける。

 


 

column

コラム

●社会医療法人 大雄会では、日本の医療システムの変化に伴い、従来の「施設完結型医療」から、地域全体で患者を支える「地域完結型医療」への移行を進めてきた。急性期を担う病院として、救急医療や高度専門医療の提供に努め、高度化・多様化を続ける医療ニーズに対応する最新技術や設備を導入。さらに、病院の機能や組織の面でも改革を進めている。

●ただ、同法人の役割は、高度急性期医療を担うだけではない。法人内に、三次救急、急性期、回復期、訪問看護、介護保険領域の事業所を持ち、非常に広い領域の医療・介護を網羅しているのが何よりの特長だ。法人内に自らの医療・介護施設を持った上で、これを軸としながら、地域の医療機関や施設と親密に協業を図ることで、その軸にしっかりとした身を肉付けしていく。こうすることで、法人内だけでは実現できない、より盤石な医療体制の構築を実現しようとしている。

 

backstage

バックステージ

●高齢化が進む日本において、新たな問題としてクローズアップされているのが、健康保険と介護保険との間の溝の問題だ。介護サービスを利用するためには、被保険者が介護を要する状態であることを事前に認定してもらう必要がある。そのため、医療機関を受診すれば直ちに保険を適用される健康保険とは違い、いきなり介護施設を訪問しても、すぐに介護保険を適用してサービスを受けることはできないのだ。

●医療と介護は、密接に絡むケースがほとんどだ。とりわけ、急性期病院から退院する患者とその家族を考えた場合、医療と介護が全く別々に機能する現状の制度は、余計な不安や負担を生む原因ともなっている。今後の高齢社会を考える上で、この「健康保険と介護保険との橋渡し」を考えることも、非常に大きなカギとなるに違いない。

 


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