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病院を知ろう

「世界健康半島」という大いなる夢の実現に向けて。

知多厚生病院


main「連携」をキーワードに、「住み慣れた町で豊かに老いる社会」の創造をめざし、限られた医療資源を最大限に活用する取り組み。

知多半島は、半島全体が一つの医療圏である。実際には、いくつかのエリアに分かれ、それぞれに拠点となる病院がある。その一番南、知多郡美浜町、南知多町の核として位置づくのが、知多厚生病院。住民の生活をしっかりと見つめ、すべてをそこから組み立てた医療提供に挑戦をする。

包括的な医療を展開する。

 

10171 かつての知多厚生病院は、決して機動性に富んだ病院ではなかった。平成10年の新病棟完成、平成21年の新診療棟完成などを経て、地域医療を包括的に担う病院をめざし、今は逞しい歩みを進めている。
 「包括的」とは、救急・急性期医療に始まり在宅医療まで、患者が治療を受け社会復帰を果たす時間軸に沿って医療を提供すること。すなわち、領域の異なる医療を切れ目なく患者に届けるものである。
 実際の中味を見てみよう。まずは「救急医療」。二次救急(※)病院として、平成24年度は救急搬送と独歩による受診を合わせ、7804件の救急患者を受け入れている。迅速で的確な初期診断を行い、約95%は自院で治療。必要に応じて近隣の三次救命救急センターに送るなど、地域に発症する急性疾患に関するトリアージ(選別)機能を有する。さらに、一次救急は、地域医師会の医師が同院で休日の定点診療を実施。地域の救急医療の核として、同院は存在する。
 高度で集中した治療が必要な「急性期治療」においては、内科・外科・脳神経外科などをはじめ、コモンディジーズ(発症頻度の高い疾患)に対応できる診療科を揃える。また、大学医局の協力のもと、麻酔科、放射線科の医師を非常勤ながら複数名配置し、精度の高い手術、迅速な検査を推進させている。
 そして、同院での治療が終了した退院後は、必要に応じて訪問看護、訪問リハビリテーションを提供。地域の診療所と一緒になっての在宅支援に注力する。また、がん治療においては、がんとともに生きる患者をしっかりと支えるために、外来での化学療法をスタートさせた。

※日本の救急医療は、外来で治療できる軽症患者への一次、入院や手術を要するやや重症度の高い患者への二次、一般の病院では対応できない重篤な患者への三次に分かれている。

 

 

医療の視点は住民の生活。

 10070 多様な姿を見せる同院だが、「それでもまだ足らない」と言うのは、宮本忠壽病院長である。「当院は知多郡美浜町、南知多町の多くの入院治療を担っているが、もっときめ細かく医療を提供する必要があります。来年4月から急性期病床はDPC(※)導入を予定していますが、それを機に病床の見直しを行います」。
 具体的には、現在の急性期病床と療養病床に加え、回復期リハビリテーション病床を新たに設置する。それにより、「疾患発症まもなく、症状が激しい時期の濃厚な治療」、「まだ病状が不安定な時期の医学管理」、「在宅復帰をめざしリハビリテーションを集中的に行う時期」、そして、「病状は安定しているものの、引き続き継続的な医療が必要な時期」という、時間軸に沿った医療提供を実現させる。そしてさらに、入院時から社会復帰をサポートする退院コーディネーターを導入し、現在すでに実施している在宅支援へと繋ぐことで、より円滑な社会復帰を推し進めたいとする。
10103 「そのうえで」と宮本院長の言葉は続く。「当院の機能を最大限有効に活用するには、他の医療機関・施設との<連携>が不可欠です。三次救命救急では半田市立半田病院、そして、一次救急や在宅医療では地域医師会、また、地域の介護・福祉施設など。そうした方々とより強固な関係を結んだとき、当院の力を活かすことができると考えます。また、災害拠点病院としては地元の行政および医師会との連携を、さらに第二種感染症指定医療機関としては中部国際空港セントレア検疫所とも連携を強化し、地域の安全を守っていかなければならない使命があります」。

※DPCとは、病名や手術・処置などに応じた診断群分類をもとに、医療費を計算する包括払いの会計方式。

 

課題は医師、看護師の確保。

10078 数々の要素を鑑み、将来構想を練る同院だが、実は一つ課題がある。「人材確保」だ。
 まず、医師だが、すべての診療領域を、すべて常勤医で揃えるには現状では無理がある。それをどう解決するか。また、高齢社会を見つめたとき、患者は一つの疾患だけではなく、複数の疾患を抱えるケースが多い。そうした患者には、臓器別・疾患別の専門治療だけではなく、生活背景まで視線を延ばした全人的な初期診断・治療も必要であり、それに対応する総合診療医をどう確保するか。
10272 また、看護師においては、現在は7対1(患者7名に看護師1名)という最高ランクの看護配置を実現し、離職率は極めて低い。理由は、ほとんどの看護師が地元出身者であること。私たちの地域の医療を守る、という使命感を持つ看護師が、自ら同院を選んでくれているのだ。だが、少子社会においては、地元愛だけに頼っては限界が見えてくる。
 「知多半島を地理的に見たとき、医師・看護師確保問題を、当院単体で解決を図ることは難しいかもしれません。実際には名古屋から車・電車ともに約60分の距離ですが、都心からは“遠い”というイメージがある。個々の病院がそれぞれ募集活動を行うのではなく、知多半島医療群をアピールする魅力、求心力が必要でしょう」(宮本院長)。

 

目標への活動が求心力となる。

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 同院の課題を、キーワードである<連携>から考えてみよう。一つには、大学医学部・医科大学との連携。今まで以上に、全病院挙げて研修医の指導に取り組み、強力な医師教育の場として昇華させる。その力を以って、大学医学部・医科大学からは医師の派遣を、また、若手医師には自らの研修の場として選んでもらう環境を作ることだ。その際、これからの社会で需要が高まる総合診療医育成が中心となれば、魅力はより高まることだろう。
 もう一つは、同院の母体であるJAとの連携である。知多地域において、JAは住民にとって日常生活の基盤だ。その「日常」に張り巡らされたネットワークに、同院が展開する健康フォーラム、各種教室、健診といった「予防」領域を組み込ませる。すなわち、病院が、健康を維持するために日常的に活用される「コミュニティプラザ」的な存在になることだ。
10066 医師の確保とコミュニティプラザ。一見かけ離れて見えるかもしれない。だが、底辺に流れる思想は一つだ。宮本院長は語る。「知多地域の医療を、都会の医療と同じ視点で捉えることはできません。今、半島で頑張る医療従事者、医療機関のすべてを合わせても、やはり医療資源は少ないのです。そうした現実であるからこそ、みんなで社会のインフラである医療・保健・福祉向上の活動を底上げし、<住み慣れた地域で豊かに老いる社会>をめざす。その活動自体を求心力として、他の地域に暮らす若者を呼び込みたい。その彼らに、やりがいある仕事、健康的な生活を提供できたとき、私たちの地域社会は次のステージに進化すると思います。またそれが、新しい医療モデルの創造にも繋がるのではないでしょうか。JAあいち知多のスローガンに〈世界健康半島つくり〉があります。当院はそれを医療の視点から実現させたいと考えます」。

 


 

column

 

コラム

●知多厚生病院の母体であるJA愛知厚生連は、愛知県下に8病院を持ち、年間外来患者延べ約227万人、入院患者延べ約122万人に利用されている。それぞれの病院設置当時は、いずれの地域でも市町村立の病院が存在しない地域にあり、一般診療は言うまでもなく、救急医療、僻地医療にも積極的に取り組む。

●そうしたJA愛知厚生連の特長を示す言葉が「総合性」である。すなわち、地域発展の経緯により各病院は個々の医療的事情を抱えているが、それを8病院が互いに補完し合い、各地域で質の高い医療の提供を実現するというものだ。

●その観点で言うと、知多厚生病院は、地理的に見て他の厚生連病院から支援を受ける要素が強い。にもかかわらず、同院は、平成3年から無医地域となった、南知多町篠島に「附属篠島診療所」を開設。自らよりも、さらに不利な条件にある離島医療に積極的に取り組み、住民の健康的な生活の維持に不可欠な存在となっている。JA愛知厚生連の「総合性」の象徴と言えよう。

 

backstage

バックステージ

●本来、都道府県全体における医療のバランスを取るのは、都道府県立の病院であろう。但し、愛知県の場合、県立病院が機能しているとは言い難い。では一体、誰が地域間格差のバランスを取るのか。

●県立病院に準ずる公立病院は、市町村立の病院となるが、市町村という自治体では、一般的にカバーする範囲が限定され、それを繋いでも県全体のバランスを取る機能には成りえない。

●そうした医療提供構造の不備を、愛知県の場合、厚生連という組織が補っているのではなかろうか。その機能をみたとき、単に「厚生連は頑張っている」という感想だけに終わらせるのではなく、広域圏の医療を考えるときの一つの事例として、その方針、具体的な活動を正しく評価する必要があるのではないだろうか。

 

 


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