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シアワセをつなぐ仕事

一人の看護師が持ち込んだ、シミュレーション学習。
楽しく学べる学習会が、新人のやる気に火をつける。

﨑田妙子/大垣市民病院 NICU(新生児集中治療室)


 

mainICUで勤務する看護師が、入職3年目の後輩のために始めたシミュレーション学習。今では異動先であるNICUを舞台に、その取り組みがさらなる広がりを見せている。部署単位での学習会ではあるが、新人看護師が楽しく学び自信を深め、一人前へと着実にステップアップ。看護師教育に新風を吹き込んだ、看護師の取り組みをリポートする。

 

 

 

 


いきなり実践ではリスクがある、机上の知識だけでは役に立たない…。
そんな両者を上手に結び付ける、看護師手づくり・シミュレーション学習会。


 

新人看護師たちから「楽しい!」と歓声が上がるシミュレーション学習。

1  「自分自身、最初は小さな赤ちゃんが怖かった」。そう吐露するのは、平成24年4月からNICU(新生児集中治療室)で勤務する﨑田妙子看護師だ。
 大垣市民病院に入職して以来、長らくICU(集中治療室)で勤務してきた﨑田看護師だが、NICUでの勤務は今までとは勝手が違った。「3人の子どもを育てる母親ですが、NICUは向いていないと思っていました。今までずっと大人を相手にしてきたため、最初はまったく未知の世界でしたね」と告白する。NICUでは、使用する医療器具も大人のそれとはまったく違う。ICUで確かな経験を積んできた﨑田看護師でさえ、当初は難しいと感じることが多かった。
 そんな﨑田看護師らが中心となり、昨年から実施されているのが、NICU学習会における「シミュレーション学習」。入職2年目までの新人看護師を対象に、3~5名の小集団を作り、具体的なシーンを想定しながら知識や技術を学ぶ実践型の学習会だ。
 1-2シナリオは自らの体験を基に﨑田看護師自身が作成する。呼吸が浅くなった新生児にどう対処すべきか。気管内挿管となった場合、必要な物品は何か。サイズは適切か。また、どのように介助すると、医師がやりやすいのか――。学習会の1週間前には各自で事前勉強をしてもらい、あらかじめ描いた机上のイメージを実際にシミュレーションしてみる。“机上”と“実際”とを結びつけ、より深い理解を促すのが狙いだ。
 この学習会は新人看護師からの評判も上々だ。「分かりやすく、自信がついた」「こうした教育は受けたことがない」と話す看護師のほか、「楽しかった」と口にする者もいる。

セミナー参加をきっかけに当時勤務していたICUで実践。
確かな手ごたえを得る。

2 﨑田看護師は、どうしてシミュレーション学習を行うことにしたのか。そのきっかけは、看護雑誌で見つけたセミナーにあった。ICUで勤務していた当時、入職3年目の看護師たちを教育する立場にあった﨑田看護師。教育を受ける本人たちに聞いてみると、「急変時の対応に不安がある」と話す。一連の流れをうまく体験させ、自信を持たせる手段はないか。試行錯誤を続けるなかで参加したのが、当時注目を集めていたシミュレーション学習のセミナーだった。
 急変対応は、机上で学んでも絶対に身につかない。人形を使った一般的な講習で心臓マッサージや人工呼吸などの手技を学ぶだけでは、意味がない。そうではなく、ナースコールが鳴り、患者に呼ばれて病室に向かうと、患者が嘔吐している。モニターを見たら不整脈が起きている…といった具体的なシナリオを描き、それに沿って体験をすることで、学習効果を高め、看護師の自信に繋げていく。その学習方法を聞き、目から鱗が落ちる思いがした。2-2
 セミナー受講後、﨑田看護師が実際にこの手法で部署での学習会を開いてみると、「楽しい!」という今までにない反応が返ってきた。「楽しいし、自信がつく。なんて良い勉強法なんだろうと感じました」と﨑田看護師。ICUで確かな手ごたえを感じた﨑田看護師は、異動先であるNICUの部署学習でもシミュレーション学習を実施。自らの経験を基に作成されたシナリオで、新人看護師のやる気を引き出し、高い学習効果を上げている。

OJTと机上の勉強。両者の間を繋ぐ研修が、新人たちの自信を育てる。

3 看護師の卒後教育は、配属先の病棟でのOJTで学ぶことも非常に多い。先輩看護師の指導を受けながら、徐々に看護師の実践的な知識や技術を身につけていく。だが、ICUやNICUなどの超急性期を担う看護師は、一般病棟よりも重症度の高い患者を相手にするため、OJTでの指導には相応のリスクが伴うことになる。
 一方、人形などを使った通常の講習では、一般的な手技の練習にはなるものの、単なる技術の習得に終始してしまい、実践に結びつけるのは難しい。この両者をうまく繋げるのがシミュレーション学習なのだ。
 3-2学習会を実施するうえで、﨑田看護師は「楽しさ」を何より重視する。ICUに入職した当初、「勉強会になかなか前向きになれなかった」と語る﨑田看護師は、「楽しく効率良く」を学習のモットーに掲げる。「学習会を“やらされ感”で参加していてもまったく身に入らない。貴重な時間を割いているのに、『これは身になるのかな』と思いながら聞いているだけでは意味がありません。楽しみながら、本人の自信にも繋がる。それがシミュレーション学習の魅力だと思います。今後は、ICUやNICUで行ってきたこの学習法の有効性を、何らかの形で実証し、看護部全体で取り入れてもらえるようにしていきたいですね」。

教育の本質とは何か。それをきちんと学ぶため、部分休業中の今でも頑張る。

4 同院に入職して以来、ずっと看護師の教育に携わってきた﨑田看護師。入職3年目にはプリセプターとして新人看護師を指導、その後も数多くの看護師を育ててきた。「あの子、一人前の看護師になったね」と周囲から声を掛けられるたび、教育への自信を深めてきた。
 プライベートでは結婚をし、子どもが3人。現在は2回目の出産で得た双子の子育てのため、部分休業を取得中だ。
 部分休業中は、同院看護部では、病棟会議をはじめ、本人に負担となる業務はなるべくさせない配慮をしている。﨑田看護師は、それをありがたいと言う。「子どもが2、3歳の頃は、育児が大変でした。就業中は、とにかく業務に集中するようにしていましたが、それ以外はやはり余裕がなかった」。
 その彼女が、最近になって<教育>をもっと深く学びたいという欲求が芽生えてきたと言う。「子どもが4、5歳になって、私にも少し時間が生まれました。折角いただいた部分休業ですから、自分の興味ある分野や、仕事への思いを実現させていきたいと思っています。部分休業中でも、いえ、だからこそ、やりたいことをやる。そんな看護師が増えれば、病院が活性化していくのではないでしょうか。またそれが、制度をさらに充実させることに繋がると思います」。そこには、恵まれた制度がない時代から活躍し続け、今は子育て中の看護師を温かく支えてくれる上司や先輩に報いたいという思いがあるようだ。
 同院の看護師教育を真剣に考える﨑田看護師。その瞳は、子育てに追われる母親とは思えないほど、仕事に対する情熱で輝いている。

 

 


 

 

 

column

コラム●同院看護部では、職員の自己犠牲で成り立つ職場環境であってはならないとの考えから、すべての看護職に対し、ワーク・ライフ・バランスを考慮した取り組みを実施している。なかでも、子育てを理由に離職する看護師を減らすために、「育児のための短時間正職員制度」と「部分休業制度」(平成21年導入)を設置。これを活用すれば、子育て中の看護師は、育児休暇後の最大3年間、部分業や短時間勤務を選択できる。

●仕事を辞めずに、育児に専念できる環境の整備は、一方で、他の看護師への業務負担と疲弊を増す。看護部では、その軽減と、意欲を高め、離職を防止することにも注力する。例えば、「夜勤専従制度」。健康上の負担を考慮し3~4カ月に1度の割合で、希望者がいるときのみ導入する。「外来から病棟への配置替え」では、夜勤回数の軽減を条件に病棟に配置を実施する。その他にも24時間保育の院内保育所整備など、職場環境改善に余念がない。

 

 

 

backstage

バックステージ

●看護師について定めた「保健師助産師看護師法」の第五条において、看護師には「診療の補助」と「療養上の世話」の2つの役割があると明記されている。ただ、大垣市民病院は、地域の急性期医療を担う基幹病院だ。なかでもICUやNICUは、重症患者が集中する病棟のため、そこでの看護は、必然的に「診療の補助」を重視したものになる。

●だが、﨑田看護師は、単に「診療の補助=医師の手伝い」となるのではなく、看護の視点を活かすことが大切だと説く。例えば、点滴の介助の際は、できるだけ負担が少なく安全なポジションを取る。エコーでの検査時には、泣かないような安静体位にする。医師の診療を補助しながら、看護の視点で患者の負担にならない方法を常に考える。「診療の補助+α」という発想により、従来にはない看護師像と、それに向けた新たな教育が生まれつつある。

 

 


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