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病院を知ろう

手術室ナースが「ワクワクする」と語る、
心臓血管外科医のチーム医療へのプライド。

 

安城更生病院


main一人の優秀な外科医が、スタンドプレーをしても意味がない。チームに関わるすべての「個」が、最大限の力を発揮することが大切。

東海地区屈指の手術件数を誇る、安城更生病院の心臓血管外科・呼吸器外科。そこに、類いまれなリーダーシップを発揮する一人の外科医がいる。チームの一員として手術に関わる看護師に、「プレッシャーはあるけど、ワクワクする」と言わしめる。その抜群の統率力の裏に秘められた、チーム医療への熱い想いを探った。

短時間の手術を可能にするコミュニケーションの力。

924135 「手術室の看護師に人気投票するとしたら、間違いなく8割の支持が集まりますね」。手術室の奥田由香看護師がこう評価するのが、心臓血管外科代表部長、水元亨医師が率いる心臓外科の手術チームだ。
 心臓外科の手術は、手術時間が長くなる場合が多い。だが、心臓という最も重要な臓器を扱うだけに、患者への負担を軽減するためには「時間短縮」が何より重要となる。
 手術時間の短縮に欠かせないもの。それは「チームのコミュニケーション」だと奥田看護師は語る。手術プランを事前に共有し、術中には術者の考えを先読みできるよう常にアンテナを張り巡らす。そんな看護師の力になるのが、水元医師らが事前に用意する手技書だ。
 「先生たち自らパソコンで手技書を作成して看護師全員に渡してくれますし、時間が許せばチーム全体でのカンファレンスを実施し、注意事項などを全員で共有しています」。常にチームを大切に考え、他職種の意見にも真摯に耳を傾ける謙虚な姿勢を持つ。だからこそ、手術の際には全員が「行くぞ」という前向きな気持ちになれるという。924194「手術時はもちろんプレッシャーはありますが、それ以上にワクワク感がありますね」。
 医療機器の操作などで手術に関わる臨床工学技士たちも、「水元先生が言うなら多少の無理でもやってやろうという気持ちになります」と口を揃える。また、呼吸器外科部長の藤永一弥医師はこう分析する。「水元先生は、必ず自分でやり方を示した上で、仕事を任せ、そして責任は自分で取る。手術が上手いだけでなく、人間性も非常に優れています。本当に医師として理想の存在ですね」。コミュニケーションを大切にし、他科やスタッフ間の連携、そして患者に対しても気配りを怠らない。それが水元医師なのだ。

 

 

個が育つ環境を生み出すことでチームとしての成熟をめざす。


924254 水元医師がめざすもの。それは手術室の雰囲気を一瞬で変えられる外科医だという。「この先生が来たら何とかなる。そんな雰囲気をチーム全体に植え付けられる存在になるのが理想ですね」と水元医師は話す。
 一方、手術とは、大きな責任が伴う医療行為だ。なかでも心臓外科の手術は、ひとつのミスが命に直結する。実はこの責任から生まれるのが、水元医師が見せる周囲への気配りなのだ。心臓外科の手術は、個人プレーでは絶対に行えない。チーム医療が欠かせない手術だ。だからこそ水元医師は、周囲の医師たちや看護師、臨床工学技士などのスペシャリストを尊重し、力を充分に発揮してもらえる環境づくりに心血を注ぐ。これにより、東海地区屈指の手術件数を抱えながら、悪い結果が起きにくい状況を生み出しているのだ。
 水元医師の究極の目標は、自分たちの手術に「再現性」を持たせること。水元医師が外科医を志した当初は、先輩医師の手術を「見て覚える」のが当たり前だった。だが、このやり方に水元医師は異を唱える。理論化、言語化をし、納得がいくように伝えることが大切だと話す。
 「一人が突出した組織では、その人がいないと機能しません。そうではなく、個が育つ環境を整え、それぞれが一流になれる状況を作ってあげる。こうしてはじめてチームとして成熟していくのです」。924177
 心臓血管外科の手術は、心臓を止めている時間に制限があるため、判断に迷っている余裕はない。時にはこうした状況下で、撤退する判断が必要になるときもある。「外科医がやりたい手術に入り込んでしまうと、冷静さを失いかねない。そんなときには周りからも遠慮なく意見が言える。こうした環境を担保しておくことがとても重要だと考えています」。

 

「陸の孤島」での経験が、メンバーを尊重するチームづくりの基礎に。


924073 個の力を尊重したチーム医療で、高い実績を残し続ける水元医師。その礎となっているのが、和歌山県新宮市にある新宮医療センターでの経験だ。三重大学医学部を卒業後、三重大学病院で勤務し、その後、安城更生病院へ。すでに医師となって15年が経っていたが、それまで充分に執刀する機会がなかった。そんな折、循環器内科と心臓外科を新たに立ち上げるために赴任したのが新宮医療センターだった。そこで水元医師は、初めてチームリーダーとして手術を経験する。
 新宮は「陸の孤島」だ。医師の数も足りず、血液も届かない。

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心臓手術ができない状況だった。こうした不便な状況下だからこそ、単なる術者ではなくプロデューサーとして全体を見る必要があった。分業化が進んだ大規模病院では顔が見えないが、新宮では小さいがゆえに、みんなが集まりやすい。そこで、看護師などのスタッフを集めてチームで勉強会を実施した。こうした状況のなかで、医師だけではなく、看護師、栄養士、理学療法士など、すべての人が自信を持って患者に関わる素晴らしいチームができ上がったのだ。

 

安城の地に、心臓血管外科医の学びの場を作りたい。


924285 一方で、新宮での経験は、水元医師に強いジレンマを抱かせた。素晴らしいチームを作り上げても、それが継続しなければいけない。ただ、新宮では、若い医師がなかなか赴任せず、新たな医師を育成し、チームを高いレベルで継続させていくのは難しい状況だった。そんなときに再び安城更生病院への赴任が決まる。医師の供給があるこの場所なら、新宮での経験を活かし、優秀な外科医を育成する理想的な環境を作り上げられるのではないか。水元医師は新宮に後ろ髪をひかれつつも、そう考えて安城更生病院に向かう。
 水元医師は、医師になって15年間、充分な執刀経験を積むことができなかった。このやり方を続けていては、優秀な医師がなかなか育たないのは当然だろう。「もし若い医師が5年で執刀できる状況になれば、きっと医師を取り巻く世界はがらりと変わる。そうすれば、意欲の高い若い医師たちがもっと集まってくるはずです」。水元医師が考えるのは、安城更生病院の心臓血管外科・呼吸器外科が、新たな臨床研修のセンターになること。臨床における大学のような場所をめざして、自らの病院がマグネットになるべきだと考えている。
 「やってみせ言って聞かせてさせてみせほめてやらねば人は動かじ。話し合い耳を傾け承認し任せてやらねば人は育たず。やっている姿を感謝で見守って信頼せねば人は実らず」。医局の壁には、山本五十六が遺した名言が掲げられている。水元医師は、毎日欠かさずこの言葉を唱和し続けているという。「安城更生病院で学びたい」。そんな人たちが自然と集まり、水元医師たちのチームから次代を担う優秀な医師たちが輩出されていく。心臓血管外科医の新しい種を蒔く。そんな取り組みが、今、安城の地で動きはじめている。

 


 

column

コラム

●安城更生病院の心臓血管外科・呼吸器外科は、昭和48年に胸部外科として発足。平成21年から現在の呼称に変更された。現在、後期研修医2名を含めた6名の医師が在籍している。心臓血管外科では、主に冠動脈バイパス術、弁膜症手術、大動脈瘤手術、ステントグラフト内挿術などを行っている。一方、呼吸器外科では、肺がんをはじめとする悪性腫瘍のほか、気胸、縦隔腫瘍、肺良性腫瘍、胸壁腫瘍、胸部外傷、漏斗胸など、胸部疾患全般にわたる手術を実施している。

●平成24年の手術件数は、心臓血管外科では、冠動脈バイパス術(単独)76件、弁膜症手術85件、大血管手術57件、総手術件数は243件。一方、呼吸器外科では、原発性肺がん93件、気胸49件、転移性肺がん9件、縦隔腫瘍18件、総手術件数は188件。いずれの分野においても、東海地区における心臓血管外科・呼吸器外科としては、屈指の手術数を誇っている。

 

backstage

バックステージ

●医師を一人前に育てるのは、臨床での経験だ。とりわけ執刀経験の蓄積がモノを言う外科医は、大学だけで育てるのは難しい。水元医師が実践するチーム医療は、まさしく新人医師を育てる絶好の教育の場だ。常に最小限の侵襲をめざすため、入念な事前準備が行われる。先輩医師が目標を定め、手技書を作り、それをカンファレンスで共有する。こうした日々の繰り返しのなかで、新人医師の知識や技能が、自然と醸成されていく好循環が生まれているのだ。

●医師を育てるのは、医師だけではない。他職種との関わりのなかで、新たな発見や気付きを得る場面も多い。メンバーを尊重する水元医師のチームでは、他職種からも遠慮なく意見が出される。この状況が広い視野を持つ医師を育む土壌になっている。同院には、大学では得がたい「貴重な学びの場」がある。

 


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