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病院を知ろう

悩み、考え、実践する。「西尾」の本気。

 

西尾市民病院



main地域の医療は、地域のみんなで創っていく。そのムーブメントを生み出し、さらに、自らの活力にして、西尾市民病院は果敢に歩み続ける。

西尾市民病院は、西三河南部西医療圏にあり、人口169,889人(平成25年10月1日現在)を抱える西尾市を責任医療圏とする。医師不足に端を発した赤字体質が続き、病院としての機動力が低下。一時は、地域で病院存続の是非が取り沙汰されたが、今年4月、新たな院長に禰宜田政隆が就任後、「病院再生」への取り組みがスタート。静かではあるが、戦略的な改革が確実に進んでいる。

これからの医療を、地域全体で考える。


919056 平成25年9月19日午後6時、西尾市民病院2階の講堂に、西尾市長、西尾市市議会議員、町内会長をはじめ、地元企業、地域医療機関からおよそ200名が集まっていた。開催されたのは、西尾市民病院が主催する医療講演会。国立長寿医療研究センターの大島伸一総長を迎え、「これからの医療の動向について」をテーマに企画されたものだ。
 大島総長の話は「今日、高齢社会に向かっていくなかで、医療の課題は一体何なのか、それについて話したいと思います」という言葉から始まり、「従来の医療と高齢社会の医療は異なる」、「異なるのであれば、これまでとは違った能力と技術と方法が必要」と続く。そして、「病院で治す医療から地域全体で治し支える医療への転換」、「その制度設計は、地域のなかで行政と医療提供者が一体になって創り上げるしかない。そして、それに市民がどう参加し意見を言うか…」と、まさにこれからの医療のあり方への核心に迫っていった。
 この講演会の目的は何だったのか。西尾市民病院長の禰宜田政隆は語る。「高齢社会を目前にして、地域医療は大きく変わろうとしています。それを当院の関係者だけではなく、広く地域の皆さまに知っていただきたいと思いました。大島総長の講演は、聴衆の皆さまに医療の変化を認識させ、ひいては、当院を見つめる眼にも影響を与える大きなきっかけになったと思います」。

 

 

研修医・若手医師に、自信を持たせたい。

919103 大島総長の講演会の2日前、9月17日には同じ講堂で一つの検討会が開かれていた。名古屋大学医学部附属病院総合診療科の伴信太郎教授を招いての「研修医・若手医師問題症例検討会」。その名のとおり、研修医や若手医師を対象に、彼らが困った症例をテーマに、講義とグループワークを交えた検討会である。
 また、10月3日には、藤田保健衛生大学病院救急総合内科の山中克郎教授による「総合診療医学の臨床カンファレンス」が開催された。初めは研修医中心であったが、三々五々、若手の上級医も集まり、山中教授の救急をベースとした総合診療に関する解説に、いずれの医師も真剣に耳を傾けていた。
 外部の医師を招聘しての研修医・若手医師向けの研修会は、西尾市民病院で度々開かれている。禰宜田はその理由をこう語る。「一つは、若い医師たちに、初期診断の重要性と、そこでの総合力の大切さを学んでほしいことにあります。なぜなら、高齢者は複数の病気を抱えているケースが多く、総合的な視点で正しい初期診断が必要になります。加えて、当院は医師数が充分ではなく、内科医は自分の専門領域だけではなく、内科系疾患全般に対応しなければならない。そのための知識と技術を深めていってほしいと考えました」。
 「そしてもう一つは…」と言葉は続く。「若い医師たちに自信を持ってほしかった。当院は、都会の基幹病院のように、各診療領域の専門医の人数は多くありません。それだけに現場では指導医が若い医師に密着して現実に即した指導を行います。指導する医師も若い医師たちも一生懸命です。だが、指導者に限りがあることに対し、若い医師たちは『この病院での研修で良いのだろうか?』と不安を持つようです。そこで著名な先生にお越しいただき、その研修を通して彼らの不安を払拭し、『自分の学びはこれで正しいのだ』と自信を持ってくれればと考えました」。

 

職員と、地域と、共通認識を持つ。


103058 西尾市民病院は、院長に禰宜田政隆が就任以来、自己改革に挑戦をしている。禰宜田はそのベースとなるビジョンを院内に示し、強靭な経営体力の構築をめざして、段階的な戦略を踏むと宣言をした。ではそうしたなかで、院内の職員だけではなく、地域の人々を対象とした講演会、そして、若手医師への研修会などは、どういう狙いを持って実施されているのだろうか。
 「当院は、これからの高齢社会を見つめて、真に地域が必要とする医療を、地域完結型で提供する市民病院となるため、自己改革を始めています。この自己改革は、当院だけが本気になっても成し得ません。市や住民の皆さまのご理解、ご協力が不可欠です。そのためには、“これからの医療はどうあるべきか”という根幹の部分で、共通認識をお持ちいただくことが必要だと考えました。また、院内での牽引役となる医師には、これからの地域医療のあり方、そこでの総合性の大切さを、臨床現場に即したところで理解してほしいと思いました。P1160097
 当院が、真に地域に必要とされる病院になるには、ハード面や仕組みが必要です。しかし、一番大切なのは、病院に関わるすべての人たちの意識、気持ちを揃えること。さらにそこに、市や住民の皆さまをも巻き込んでいく。つまりは、この西尾全体が、同じ方向を向いた歩みになることが、当院を再生させ、ひいては地域医療を変えていくと考えます。
 私たち西尾市民病院は、本気で変わりたい、変わろうと決意しています。地域の皆さまも、本気で向き合い、ともに考えていただけると有り難く思います」。

 

地域包括医療のセンター病院をめざす。


103073 西尾市民病院が進める自己改革。その最終形は、地域包括医療における地域のセンター病院になることである。すなわち、通常の内科、外科といった括りではなく、悪性腫瘍をはじめとした主要疾患別に機能を集中させたセンター化を図り、コモンディジーズ(発症頻度の高い疾患)にしっかりと対応する。もちろんそこでは、地域の医療機関との連携をさらに強化するとともに、在宅支援機能をより高め、地域とともに生活に密着した病院となる。
 これを実現させるには、現段階ではいくつかのハードルがある。まずは経営基盤の確立。例えば、急性期のみの入院病床を、回復期、療養期に分け、隣接する基幹的な病院からの退院患者を受けることで病床利用率を上げ、収益の確保を図る。一方で、医師の供給元である大学医局との関係を再構築し、同院への正しい理解のもと、積極的な医師の供給を受けることができるようにする。そうした医師には、総合的な診断・治療能力の向上を強く求めるとともに、医師をサポートする機能も整備する。また、絶対に断らない救急医療体制の構築も不可欠である。総合診断機能の強化、救急患者トリアージ能力の高度化、全病院挙げての協力体制の整備を図り、地域の二次救急に万全の態勢で臨んでいく。

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 「問題は山積みです。一つひとつ解決していかねばなりません。院内の職員が一丸になることはもちろんですが、先にもお話ししたとおり、地域の方々にも新しい市民病院づくりに参加していただきたい。それは、これからの地域医療を認識していただくこと。病院を適正利用していただくことなど、多々あります。皆さまからの一歩と、私たちからの一歩を揃えることができればと考えます」。禰宜田は心を込めてそう締めくくった。

 


 

column

コラム

●「意欲尊重主義」。これは西尾市民病院が、研修医募集のために制作したポスターのキャッチフレーズである。ポスターでは「進んで学べる環境があります」とし、「自主的・自律的に学べる、多くの手技が早く確実に習得できる、プライマリ・ケアが習得できる、各診療科間の垣根を超えて学べる」と紹介文が続いている。研修医時代に大切なことは「実際の臨床経験」。まさにそのステージがここにあると、アピールする。

●禰宜田の研修医、若手医師に対する期待は大きい。本文で紹介した伴教授、山中教授の検討会や講演会のほかにも、東京大学医学部附属病院の肝胆膵外科・人工臓器移植外科/大場大助教、名古屋大学医学部附属病院の皮膚科/秋山真志教授らを招聘し、勉強会、ミニレクチャーなどを実施。意欲を持ち、さらなるステップを「自ら」上ろうとする医師を強力に後押しする。

 

backstage

バックステージ

●病院再生をめざす西尾市民病院。禰宜田院長は果敢な展開を続けているが、そのなかでも今回本文冒頭で紹介した医療講演会の開催は、医療機関として画期的な取り組みである。通常なら職員が対象となるところ。それはそれで大切だが、禰宜田院長の目線は院内に留まらず、地域全体を真剣に見つめている。

●今日の医療の変化はとても大きい。医療機関は、病院経営において、国の医療政策に沿って舵を取らざるを得ないが、独り自らだけが走っても意味はない。地域全体が、いや、生活者の一人ひとりが「医療のオーナーシップ」を自覚し、これからの自分に、家族に、真に必要な医療は何か、そのためには何が大切か、考えることであろう。そうした発想の必要性を、この医療講演会は大きく示したものと考える。

 


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