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病院を知ろう

臨床研究中核病院として、
医療イノベーションを日本から世界に発信していく。

 

名古屋医療センター




main国立病院機構のネットワークとデータセンター機能を活かし、臨床研究中核病院の使命を果たしていく。

アベノミクス第三の矢・日本再興戦略で、「先端医療の振興と産業化」が重点政策に位置づけられた。革新的医薬品・医療機器を創出するために、厚生労働省は今、臨床研究中核病院の整備を進めている。その一つに選定されたのが、国立病院機構名古屋医療センター。医療イノベーション推進の一翼を担い、全国ネットで国際標準の臨床研究を創出する体制づくりに取り組んでいる。

国立病院機構の総力を結集し、臨床研究中核病院事業を推進していく決意。

830059 平成25年8月3日、国立病院機構(以下、NHO)名古屋医療センターの講堂で、「NHO臨床研究中核病院記念シンポジウム」が開かれ、NHOに所属する大勢の研究者や医師、職員が集まった。NHOは、旧国立病院・療養所を引き継ぐ形で、平成16年に発足した独立行政法人。全国143の病院を一つの組織として運営する日本最大の病院グループである。
 今回のシンポジウムは、NHO名古屋医療センターが「臨床研究中核病院」に選定されたことを記念して開催された。臨床研究中核病院は、日本の成長戦略である「先端医療の振興と産業化」を踏まえ、厚生労働省が整備を進めているもの。国際標準の臨床研究の中心的役割を担う病院を全国から選び出し、日本発の革新的な医薬品・医療機器の開発をめざしている。平成24年度に5施設が選定、続く平成25年度も追加公募され、名古屋医療センターを含む5施設が選定された。臨床研究中核病院は5年間にわたり国費の補助を受け、その後は独立採算で臨床研究の中核機能を果たしていくことになる。
 シンポジウムでは、「創薬開発における臨床研究中核病院の役割」「先端医学は何故、臨床研究を必要とするのか?」と題した基調講演がそれぞれ行われた後、NHO臨床研究の飛躍に向けて、NHOに所属する研究者や医師たちがさまざまな論点から講演を行った。名古屋医療センターを中心に、NHO全体が一丸となって臨床研究中核病院事業を成功させるべく努力していく。その決意を参加者全員で共有し、大きな拍手とともにシンポジウムは閉会した。

 

名古屋医療センターが臨床研究中核病院に選定された理由とは。

IMG_6335 臨床研究中核病院事業は主に、大学病院やナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)を対象としたものであり、名古屋医療センターは異色の存在といえる。平成25年度は45施設から応募があったというが、並みいる強豪を押しのけて、なぜ名古屋医療センターが選ばれたのか。
 その理由を、名古屋医療センター・臨床研究センター長の堀部敬三はこう説明する。「第一に、NHOの規模とネットワークを活かした臨床研究の実績が評価されたこと。そして、小児血液がんの臨床研究拠点として構築したデータセンター機能が評価されたのだと思います」。
 NHOは全国に約5万床を抱えており、強力な治験患者リクルート体制をもつと同時に、多領域にわたり疾患別臨床研究に取り組んできた。また、名古屋医療センターでは10年ほど前から、小児血液がんの分野で「多施設共同臨床研究」を進めており、その過程のなかでデータセンターを構築。治験データを電子形式で収集し、管理する独自のEDCシステム(※1)を開発し、運用してきた。「NHOのネットワーク機能と高度なデータセンター機能を駆使して、出口戦略を見据えた臨床研究を行い、エビデンス(※2)を創出し、薬事承認申請に繋がるデータを提出していきたい」と、堀部センター長は意欲を燃やす。

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 同じ臨床研究中核病院であっても、大学病院、ナショナルセンター、NHOの名古屋医療センターに期待されるものはそれぞれ異なる。大学病院は主に基礎研究から臨床研究までを一体的に行う橋渡し研究(トランスレーションリサーチ)、ナショナルセンターは疾患ごとに特化された臨床研究。そしてNHOである名古屋医療センターは、メーカーや大学などから多様な基礎研究成果(シーズ)を受け取り、そこから「日本発の革新的な製品」という大きな花を咲かせる体制づくりが期待されているといえるだろう。

※1EDCシステムとは、従来、「紙」を用いて臨床研究データ管理してきたものを、電子形式でデータを管理するもの。医薬品開発のスピードアップとデータ品質の向上という両面で効果が期待されている。

※2エビデンスとは、ある疾患に対する治療法が、実際に効果のあることを示す科学的根拠や臨床的な裏付けのこと。

 

基礎研究は強いが、臨床研究に弱い日本。その現状を改革していく。

40077 そもそも厚生労働省が臨床研究の拠点づくりに着手した背景には、わが国における臨床研究の遅れがある。国内で基礎研究の素晴らしい成果がでても、それがなかなか実用化にまで結びつかず、海外での臨床試験・開発が先行し、医薬品・医療機器が逆輸入される現象が続いているのだ。
 「これまで日本は“エビデンスに基づく医療”をつくりだす力、すなわちエビデンスを創出する力が弱かったんだと思います。新薬の薬事承認には、治験によって医薬品のエビデンスを示す必要がありますが、日本ではその仕組みづくりが遅れ、海外に先を越されてきました」と堀部センター長は説明する。海外で承認された医薬品が、2、3年経ってようやく日本で承認される現象。これを「ドラッグ・ラグ」というが、その原因もまた、治験がなかなか進まないところにあるといわれている。
 名古屋医療センターの直江知樹院長は別の角度から、日本の臨床研究についてこう分析する。「日本が欧米に決定的に劣っているのは、一つはトランスレーション(橋渡し)の部分、基礎研究を臨床研究へ橋渡しする人材や仕組みができていないこと。

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もう一つは、疾患データベースや臨床研究データ管理が遅れているところだと思います」。
 臨床研究データについていえば、最近、大手製薬会社ノバルティスファーマ社の臨床試験における不正データ操作疑惑が報道され、日本の臨床研究全体の信頼性が大きく揺らいでいる。こうした不正を防ぐには、データの信頼性を保証する仕組みづくりが不可欠。名古屋医療センターのデータセンターでは、疫学や生物統計学の専門家がデータ管理に携わり、モニタリングや監査機能を備えて、臨床研究データの質を保証している。「当院は長年にわたり、疾患登録をしてきた実績があり、データの質を担保できるデータセンターがあります。それが強みですね」と、直江院長は自信をのぞかせる。

自ら勝ち取った「臨床研究中核病院」を成長のエンジンに。

 臨床研究中核病院に選定されたことは、名古屋医療センターにとってどういう意味をもつのか。「今回のように、自ら手を挙げて、補助金を勝ち取り、新事業に挑戦するのは初めてのこと。画期的な試みでした」と直江院長は言う。国立病院の歴史を受け継ぐ名古屋医療センターは従来、どちらかというと受け身で政策医療を担ってきた。今回の選定を起爆剤に、長年染みついた受け身体質から脱却し、「自分たちの力で攻めていく病院」への変革を、直江院長は構想する。
 「臨床研究中核病院になったことで、各診療科の医師たちのモチベーションは間違いなく上がると思います。国立病院だったのは昔の時代で、これからはNHOネットワークをバックにもつ“研究病院”という特色を打ち出し、よりクオリティの高い医療を提供できる病院へ成長していきたいですね」(直江院長)。
 また、堀部センター長も、マグネットホスピタル(※)への飛躍に期待を寄せる。「各診療科では、自分の臨床を研究に活かしたり、研究で生まれた成果をまた自分の臨床にフィードバックする環境が整います。その魅力が医師の意識を変え、また研究マインドのある医師を集める力となり、ひいてはそれが患者さんのためになるはずです」。
 臨床研究中核病院という「成長のエンジン」を手に入れ、名古屋医療センターは“研究病院”というマグネットホスピタルへと生まれ変わろうとしている。その変革のストーリーは今まさに、始まったばかりだ。

※マグネットホスピタルとは、患者・医師・看護師を磁石のように引きつけて放さない、魅力ある病院。

 


 

column

コラム

●名古屋医療センターは、明治11年、名古屋衛戍(えいじゅ)病院として開院し、その後、陸軍病院として稼動。終戦後、国立名古屋病院となり、平成16年に独立行政法人に移行し、現在の名称になった。院内に臨床研究部(現・臨床研究センター)が設置されたのは、前身の国立名古屋病院の時代。国が果たすべき医療の質を向上させる目的で、全国で3つの国立病院に臨床研究部が設けられ、名古屋医療センターは「血液病」の研究を担うことになった。

●血液病がテーマに選ばれたのは、この地域が日本の血液医学の黎明期を担ってきたからである。名古屋大学が推進役となり、血液医学の先駆的な研究を推進してきた臨床研究を継承。以来、名古屋医療センターでは血液・造血器疾患分野の研究に力を注ぎ、昨今はとくに、全国の小児血液がん臨床研究の中心的な役割を担っている。

 

backstage

バックステージ

●臨床研究は、医薬品や医療機器の開発に必要な研究というだけではない。たとえば、がんなどの領域では、新薬が市販された後に、既存薬の組み合わせによる最適な治療法を見出したり、併用治療の効果を検証する臨床研究も必要となる。また、高額医療機器の場合、その治療法が費用対効果に優れているのか。経済効果、社会的効果、患者満足の効果を含めて検証することも、臨床研究のテーマとなる。突き詰めれば、臨床研究とは本当にいい医療とは何かを追求し、その成果を患者や社会に還元するための研究といえる。

●国が進める臨床研究中核病院事業は、日本発の革新的な製品開発が目的だが、その終着点もまた、医療関連産業の国際競争力の向上だけではない。有効で安全な新しい治療法を必要としている患者に、一日も早くその恩恵を届けること。そして、臨床研究の成果を、患者診療や地域社会に還元できてこそ意味があるといえるだろう。

 

 


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