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病院を知ろう

患者を全人的に診る病院総合医を育成する。

 

名古屋第二赤十字病院



main患者の満足度向上と研修医教育、二つの使命を担う「総合内科」。

高度急性期病院として、臓器別の高度専門治療を展開する名古屋第二赤十字病院。そうした専門診療科の谷間に落ちる患者を診断し、専門治療への道筋をつけると同時に、研修医に全人的な医療を指導しているのが、「総合内科」である。総合内科の立ち上げの経緯から現在の活動までをご紹介しよう。

看板だけの総合内科ではなく、本物の総合内科をめざした。

926323 名古屋第二赤十字病院の「総合内科」を訪ねると、胸にクマの刺繍の入った白衣を着た医師がにこやかに出迎えてくれた。総合内科の横江正道部長である。「患者さんと会話する糸口になればと思って、オリジナルのユニフォームを作ったんです」と照れ笑いする。
 横江医師が同院に着任したのは、平成16年。新たに「総合内科」を立ち上げる計画があり、救急医療や消化器内科で経験を積んできた横江医師が、その基盤作りを託されたのだ。総合内科を新設する狙いの一つは、臓器別の専門診療科からこぼれてしまう患者の受け皿作りだった。救急外来では病名の診断がつかず、入院させたくても入院させられない患者が大勢いたからだ。
 どういう総合内科を立ち上げるべきか。周囲の病院を見渡せば、総合内科を立ち上げたものの、うまく機能せずに廃止した事例も多くある。当時はまだ、総合内科に対する社会的認知度も低く、院内でもその位置づけは曖昧だった。横江医師は、「看板だけの総合内科ではなく、本物の総合内科を作らなくては」と強く思った。本物の総合内科とは、各専門科からこぼれた患者を診るという以上に、幅広い視野で総合的な診療能力を発揮できる診療科だ。それには、自分の力量だけでは足りない。「もっと本格的に総合診療を学んできた上司がほしい」と、横江医師は病院幹部に願い出た。

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その要望は承認され、しばらくして赴任してきたのが、野口善令医師(総合内科部長)。米国の成熟した総合内科のなかで研鑽を積み、日本では数少ない「米国内科専門医」の資格をもつ、総合診療の権威だった。
 平成18年4月、野口医師という強力なリーダーを得て、総合内科は確かな船出をした。船出にあたって、野口医師らはほかの内科に一つの条件を出した。「不明熱(原因のわからない体温上昇)などは、一手にうちがやりましょう。ただし、他の診療科が診たくない疾患は全部うちへ、というのは困ります」と。なんでも引き受けてしまっては、自分たちの士気も下がり、バーンアウト(燃えつき)してしまうからだ。総合内科と他診療科の間で、「蘇生後脳症、薬物中毒、熱中症などの病態については、内科輪番制で対応する」ことを取り決めたことは、その後のスムーズな院内連携に大いに役立った。

 

的確な診断、そして、患者にとって最適な治療を提案する。

926227 当初、総合内科が対象とした疾患は、先ほど述べた不明熱、全身倦怠感などだった。やがて、同院にない診療科の疾患、たとえば感染症、アレルギー性疾患、リウマチ性疾患、膠原病など、全身にわたって横断的な視点が必要な領域の疾患もカバーするようになった。総合内科ができたことで、救急科やほかの診療科の医師が働きやすくなったことは言うまでもない。
 では、そもそも総合内科医(以下、総合医と表記)とはどんな医師だろうか。「総合医は、働いている場所によって役割が変わります。たとえば、診療所では家庭医として継続的に地域の人たちを診ていく役割、中小病院や地方の病院では、専門医が揃っていないので、内科的疾患をなんでも診ていく役割が要求されます。当院のような大きな病院では専門家がすでに揃っているので、“診断をつける”ことに重点をおいています」と野口医師は説明する。
 総合内科では、診断をつけて、必要があればしかるべき専門医へ繋ぐトリアージ機能を果たしている。927317また、入院患者に対しては、「ホスピタリスト(病院総合医)としての診療を心がけている」と野口医師は言う。「ホスピタリストとは“入院患者を診る医師”という意味で、自分の専門によって診る診ないを決めず、患者さんの病気はもちろん、家庭背景などすべてを視野に入れ“どうなったら、この人にとって一番いいのか”ということを患者さん本人やご家族と考えていきます。たとえば、入退院を繰り返しているご高齢の方には、人生の終わりの迎え方についての希望を聞き、『積極的に治療しないという選択もありますよ』、というお話をすることもありますね」。
 このような患者の思いに寄り添う医療に対し、患者や家族の満足度・信頼度は極めて高い。「患者さんやその家族と喜びを分かち合う充実感が、一番のやりがいです」と野口医師はほほえむ。

 

富士山が美しいのは、裾野が広いから。裾野の広い医師を育てる。

927261 もう一つ、総合内科に課せられた使命が、研修医教育である。同院の石川清院長も「私たちが野口先生に最初にお願いしたのは、若手医師の教育でした」と語る。「医師の基本は、患者さんを診る力です。総合内科は全部の疾患を押さえつつ、人を総合的に診て、筋道を立てて、治療していきます。これ以上、臨床教育に適した場はないと考えました」。
 実は野口医師が同院への赴任を決意した原点にも、「これからは若手の指導に力を入れたい。しかも、大学ではなく、臨床現場で若手を育てたい」という強い思いがあったという。その思いと同院側の期待がうまく合致したのである。
 では、総合内科ではどんな教育を行っているか。野口医師は次のように説明する。「大きな柱は二つあります。一つは、医学的な診断能力。たとえば、病名がわからないから、とりあえずCTを撮るというのでは、患者さんに無駄な被曝をさせますし、費用的にも無駄です。そうではなく、まず最初に疑うべき病気をいくつか考え、それらを診断するためにはどんな検査が必要かを考えるように指導しています。もう一つは、ホスピタリストに必要なマネジメント能力。患者さんのニーズを聞き出し、一緒にいい方法を考えていく力を養っています」。
 研修は総合内科にとどまらず、救急の現場で野口医師、横江医師らが研修医と一緒に診る機会も用意されている。救急患者を総合的・横断的に診るアプローチは、研修医にとって価値ある学びとなっている。横江医師は研修医たちに「裾野の広い医師になれ」と語りかける。「富士山が美しいのは、裾野が広いからですよね。東京スカイツリーはかっこいいけれど、建物としては不安定な感じがします。裾野が広い医師の方が安定感があるし、まず基礎を身につけてほしいですね」。

 

ホスピタリストを育て、地域へ輩出していく。

926101 厚生労働省は今、これまでの進み過ぎた臓器別の専門分化への反省から、総合医の育成に着目している。しかし、総合医のステータスはまだまだ低く、確固たるキャリアプランもない。そのため、臨床研修の一つとして総合診療を学ぶものの、将来的には臓器別専門医をめざす学生が大半を占めるのが実情だ。そうしたなかで、同院の総合内科では現在、3名もの後期研修医が在籍し、活躍している。なぜだろう。「当院には、野口先生や横江先生という目標となるモデルがあります。この道を行けば、自分もそういう活躍ができると期待できるからではないでしょうか」と石川院長は語る。
 ホスピタリストをめざして集まる研修医たち。石川院長は、その将来に大きな期待を寄せる。「今後、さらに高齢者が増えたとき、専門の臓器を診るだけでは医療が成り立たなくなり、患者さんを総合的に診る医師が絶対に必要となります。当院で育った総合医たちは、地域へ行ってどんどん活躍してほしいと願っています」。
 超高齢社会に必要な総合医を育て、輩出する。総合医の養成に対する社会ニーズを先取りして、同院は地域の医育拠点としてリーダーシップを発揮していこうとしている。

 


 

 

column

コラム

●名古屋第二赤十字病院・総合内科の後期研修(※)プログラムには、へき地を含めた地域の病院や診療所での研修が用意されている。研修の目的は、病院総合医だけではなく、地域での家庭医療・へき地医療の視点を養うためのものだ。たとえば、愛知県の東北部に位置し、過疎化が進む東栄町の東栄町国民健康保険東栄病院では、例年、後期研修医が派遣され、「攻めの医療」とはまた違う「守りの医療」を学び、貴重な経験を積んでいる。

●医師派遣はまた、医師不足に悩む地域医療を支援する意味をもつ。同院では2年前、赤十字の医師派遣拠点に指定されたのを契機に、北海道、長野などの日赤病院へ積極的に医師の派遣を行ってきた。地域医療崩壊の危機は、決して対岸の火事ではない。同院は広い視野で日本の医療が抱える課題を見据え、医師を育て、派遣していくことで社会貢献を担っている。

※医師の資格を取得し2年間の初期研修を受けた後、専門的な科目において受ける研修。

 

 

backstage

バックステージ

●最近、テレビ番組でとりあげられるなど、総合医の認知度は徐々に高まってきている。しかし、まだ歴史の浅いことから、その定義はあいまいで、名称も「総合医」「総合診療医」「一般医」「家庭医」などまちまちだ。また、総合医を養成するプログラムや、総合医という専門医を育てる仕組みについても、論議されている最中である。

●社会全体でみたとき、今は地域医療の転換期であり、総合医の機能や役割もまた過渡期にある。野口医師が話すように、大病院、中小病院、診療所など、おかれている場所によって、総合医のあり方は少しずつ異なっている。しかし、それらに共通するのは、疾患ではなく患者を診るという総合医のマインドだろう。患者に寄り添うマインドをもった医師が一人でも多くここから育ち、地域へ羽ばたいていくことを期待したい。

 


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