6,914 views

病院を知ろう

市民の健康と生活を守る病院へ。
新たなミッションを掲げて、
市立伊勢総合病院が生まれ変わる。

 

市立伊勢総合病院



main病院再生のキーワードは、生活習慣病対策。病気を治すとともに、病気にさせない、寝たきりにさせない医療を提供し、市民生活になくてはならない病院をめざす。

市立伊勢総合病院のホームページを訪ねると、トップページに「新病院の開院まであと○○○○日」というカウントダウンが表示される。
平成30年5月の新病院の開設に向けて、病院機能の大転換を図りつつある市立伊勢総合病院。
変貌する同院の行方を追った。

健康寿命を伸ばすために、生活習慣病予防チームが立ち上がった。


50169 「健康寿命」という言葉をご存じだろうか。これは世界保健機関(WHO)が打ち出した概念で、介護を必要としないで、自立した生活ができる期間のことを指す。厚生労働省の発表によれば、日本人の健康寿命は、男性70・42歳、女性73・62歳で、平均寿命との差はそれぞれ9・13年、12・68年。寿命を全うするまでの10年前後は、介護を受けて暮らしていくことになる。
 介護を受けながらの生活は、本人や家族にとっても大変であり、医療費や介護給付費の増大にも直結する。いかに健康寿命を伸ばすか。社会的にも関心の高まるこの命題に挑み、病気予防に力を入れるのが、市立伊勢総合病院の生活習慣病予防チームである。
 このチームはもともと、代表的な生活習慣病である糖尿病対策チームとして発足した。当初は、糖尿病教育入院(糖尿病の患者に、治療法や自己管理方法について丁寧に指導するもの)に取り組み、やがてフットケア外来、市民講座の開催などへと活動を広げてきた。メンバーは薬剤師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、事務員の多職種混合で、現在18名。このうち9名は糖尿病療養指導士の資格を持つ、糖尿病のエキスパートだ。
 「専門用語でエンパワーメント(※)と言いますが、私たちが指導を押し付けるのではなく、どうすれば患者さんが自発的に治療に参加してくれるかを考え、援助しています」と、メンバーの一人、高尾雄介薬局長は話す。患者が治療に参加する動機づけとなるように、年6回、患者や一般市民を対象に糖尿病教室を開催。そのほか、老人介護施設に出向いて出張糖尿病教室を開き、施設の職員にインスリン注射の打ち方を指導するなど、病院の外へ出る機会も増えてきた。
 さらに昨今は、生活習慣病予防チーム以外のチームも生活習慣病対策に積極的に取り組んでいる。たとえば、ロコモティブシンドローム(足腰などが弱まり、要介護になるリスクの高い状態になること)に着目し、一般市民を対象とした「転倒予防教室」の開催にも力を入れている。

※エンパワーメントとは、患者自身が潜在的な能力に気づき、自己管理できるように医療側が援助すること。

 

全職員が一丸となって生活習慣病対策に取り組む。

50029

 生活習慣病予防チームの意義について、藤本昌雄院長はこう語る。「糖尿病をはじめ、がん、脳卒中、心筋梗塞などはすべて、患者さんの生活習慣が根底に絡んでいます。急性期医療が対症療法だとすれば、生活習慣病対策は原因治療法。投薬・手術など病院主体の治療には限界がありますし、患者さんが主体となって自己管理し、医師、看護師、コメディカルスタッフがサポートしていくような治療が重要なのです」。また、生活習慣病対策は、新しい病院づくりの“助走”という意味も持つ。「当院は新病院の機能の一つとして、予防医学を掲げています。その重点課題として生活習慣病対策を位置づけています」(藤本院長)。
 5年後の新病院開設をにらんで、今年3月から、全職員を対象とした研修会も始まった。これは、職種に関係なく全員が生活習慣病を熟知するのが目的だ。参加した職員からは「学んだ知識を、仕事に活かしたい」「病気と薬の関係が理解できた」などの意見が寄せられ、知識の底上げに繋がっている。
 藤本院長は、この院内研修を『職員から家族へ、そして市民に拡げよう健康の輪』と位置づけ、今後は地区医師会、_M6638行政や企業などと緊密に連携し生活習慣病対策を行っていきたいと話す。
 また市民公開講座では、藤本院長も壇上に立ち、熱弁をふるう。院長自身が毎日、30分の道のりを歩いて出勤している経験談も交えながら、生活習慣病予防の重要性をアピールしている。「院長自ら陣頭指揮をふるい、新たな目標に向かうなかで、職員の意識は従来とは明らかに変わりました。みんなで一丸になって頑張ろうという活気にあふれています」と高尾薬局長は、明るい笑顔を見せる。

 

存続か閉院か。瀬戸際から脱却した市立伊勢総合病院。


_M6697 _H6241 今は活気に満ちている同院だが、ほんの数年前まで、存続か閉院かが議論される瀬戸際に追いつめられていた。
 もともと同院は、三重県中南勢地域の二次救急を中心とする急性期医療を担ってきた病院だった。大きな節目は、医師の新臨床研修制度の導入である。臨床研修医受け入れのための必要な学習・就業環境の整備を充分に行うことができなかった同院では、医師不足が顕在化し始める。それとともに露呈した勤務医の過酷な就業状況。その対応が後手にまわったことに病院の建て替え問題が重なり、医師のモチベーションの低下や離職と、同院は深刻な医師不足に陥る。内科系では、17名ほどいた医師がわずか7名に減少。募集しても研修医は来なくなり、病院全体からアクティビティが失われていった。すると、それまで同院に搬送されていた救急患者も日赤病院へ流れるようになり、二次救急の輪番制病院としての受け入れも週1日のみに激減。もはや市民病院としての存在価値まで問われるようになった。
 「市民病院はもういらない」という声まで聞こえてくるなかで、自分たちの病院はどうあるべきだろう。同一の診療圏に日赤病院という高度急性期医療機関があるこの地域で、我々は何をめざすべきだろうか。藤本院長らは地域のために自分たちが何ができるのか、徹底的に自問自答をくり返した。そこから生まれたのが、「高度急性期医療機関とは別軸で、地域住民の健康を守り続ける病院が、必要ではないか」という新たな視点だった。病気予防に注力し、市民の健康と生活を守る病院へ。コンセプトは決まった。そして、平成24年9月、伊勢市長が病院建て替えを表明する。

 

急性期、回復期、予防医学を3本柱に、新しい伊勢総合病院へ。


_M6733  新病院の病院機能は、これまで述べてきた「予防医学(健診)」のほか、「急性期医療」「回復期医療」の3本柱に決定した。
 藤本院長は、次のようにビジョンを語る。「市民のための病院として、まずは病気にさせない取り組み、生活習慣病対策に力を入れます。そして、地域で発症する一般的な疾患に対応できる急性期医療機能を担保しつつ、特殊な三次の症例に関しては日赤病院にお願いし、二次救急の拡充にも尽力していきたい。さらに、回復期医療、ターミナル期を支える緩和ケアを充実させ、予防から急性期、回復期、療養期、緩和ケアまで一貫してできる病院をめざします」。
 新しい病院づくりの布石として、今年9月には回復期リハビリテーション病棟を開設。それに先立ち、入院中の患者を対象に「毎日リハビリテーション」も実施してきた。発症間もない段階から毎日継続してリハビリテーションを行うことは、患者の身体機能回復を早め、健康寿命を伸ばす目標に繋がっている。
 「市民の健康と生活を守る病院として、地域の医師会、日赤病院としっかり連携し、急性期医療、回復期医療を提供していきたい。また、地域の在宅医療機関、介護・福祉施設と協力し、患者さんをスムーズに退院後の生活へ繋いでいきたいですね」と藤本院長は語る。
 数年後には、この地域に、市民の命を守る高度急性期医療機関と、市民の健康と生活を守る市民病院という、2タイプの拠点がそろう。どちらのアプローチも地域医療に必要不可欠であり、市民の健康にとって喜ばしいことは間違いない。生まれ変わる同院に、地域から大きな期待が寄せられている。

 


 

columnコラム

●新しい市立伊勢総合病院は、現在地の南側に建設が予定されている。診療科は、新設される「リハビリテーション科」「緩和ケア内科」を含めて全部で19科。さらに脳神経外科の体制を再整備し、脳神経内科と合わせて、急性期から回復期の脳神経系疾患に対し、総合的に診療を行う計画だ。

●病床は現在の322床から、300床に縮小。一般病床220床、回復期リハビリテーション病床40床、療養病床20床、それに加えて、新たに緩和ケア病床20床が開設される。急性期・回復期・療養期・緩和ケア病棟をトータルに備えた病院として、急性期から在宅への切れ目のない医療を提供していく。同時に、地域の医療機関、福祉施設などと緊密なコミュニケーションを図り、地域医療をしっかり支えていく計画である。

 

backstage

バックステージ

●臓器別の専門医療を追求することで、高度急性期病院の医療レベルは飛躍的に進歩を遂げてきた。命に関わる重篤な疾患や外傷を集中的に治療する医療機関は重要で、地域になくてはならない存在だ。しかし今回、市立伊勢総合病院と出会い、臓器別に病気を治療する病院とは別に、住民の健康や生活を守る病院というカテゴリーが求められていることを再認識した。

●超高齢社会の進展に伴い、今、医療界は大転換期を迎えようとしている。その時代の流れに呼応するように、同院は「病気にさせない、病気になっても重症化させない、あるいは寝たきりにさせないための医療」へと大きく舵を取ろうとしている。患者一人ひとりの生活に寄り添う医療を、どのようにきめ細かく提供していくか。新病院オープンに向かって突き進む同院に、今後も注目していきたい。

 


6,914 views