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病院を知ろう

 

今後も地域に貢献していくために
患者の「幸せ」を紡ぐ医療人を育てる。

社会保険中京病院



main〈中京病院〉としての、新たなアイデンティティの確立をめざして。「地域貢献」に欠かせない「総合力を持つ医師」養成への挑戦。

平成26年4月から、「地域医療機能推進機構中京病院」と名称を改め、新たに組織された病院グループの一員として生まれ変わる中京病院。そんな同院が力を入れる新たな試みが、「総合力を持つ医師」の本格的な育成だ。内科領域において、特定の診療科に捉われない横断的な知識を身につけ、患者の退院後までを見据えて携わる「総合的な視点を持つ専門医」。その育成を通じて、今後も変わらず同院は地域とともに歩み続けていく。

2年間の初期研修の後、さらなる学びを得る統合内科。


30195 「この方は80代の男性で…」。担当する患者の背景や家庭状況、治療方法などを報告し、各診療科の上級医の助言を仰ぐ統合内科の医師たち。中京病院の統合内科では、週1回、カンファレンスが実施されている。
 このカンファレンスに参加するひとり、立枩(たてまつ)良崇医師は、同院で2年間の初期研修を受け、さらに統合内科で後期研修を行う専攻医だ。立枩医師が同院を研修先に選んだのは、地域の中核病院であり、かつ初期診断について幅広く学べる場所だと感じたからだという。「三次救急も行い、軽症から重症までさまざまな症例に触れることができる。初期研修の2年間は広い視野を養いたいと考えていましたから、そんな私には最適な環境でした」。
 大学卒業後の医師を育成する2年間の臨床研修制度では、内科、外科、地域診療所などあらゆる場所を回り、まずは初期診療を中心とした幅広い能力を習得する。そして、その後の後期研修では、志望する科に所属し、より専門に特化した知識を学ぶのが一般的だ。だが、同院では、後期研修において、統合内科でもう1年間、総合的な視点を養うための教育を行う。立枩医師は腎臓内科の専門医をめざしているが、専門科で学ぶ前に、こうして専門科以外のより広範な知識を磨いているのだ。
 2年間の研修で初期診療を学んだ後、統合内科でさらに1年間の経験を積むことについて、立枩医師は「得るものがたくさんある」と語る。「初期研修でも内科を回りますが、後期研修では主治医としてもう一度内科を経験する。主治医での経験は“本気度”が違います」。また、統合内科という組織のメリットも大きいと分析する。「統合内科の医師であれば、どの診療科の先生にも遠慮なく質問ができます。そこから得られる幅広い知識はとても貴重だと思いますね」。

 

 

根拠に基づいた医療をベースに患者の幸せを考えた総合的な医療をめざす


30146 今までは医療が高度化し、臓器別の専門家が必要とされてきた。「この病気だから、この治療をする」という医療の標準化もそうした蓄積の上に実現したものだ。その点を強調した上で、同院副院長の津下圭太郎医師はこう語る。「総合的な医療は、医療の標準化の次のステップです。患者さんが最終的にどんな環境で、どういった生活に落ち着くのか。こうしたゴールを見据えながら治療法を判断する。患者さんの価値観が多様化するなか、急性期の段階から退院後の生活を考える視点が求められていると痛感しています」。
 「ゴールを見据えた医療」。これを求める声に応えるべく誕生したのが、同院の統合内科だ。「統合」という言葉には、内科系の7科が統合したという意味だけでなく、ひとりの患者にさまざまな知識と技術を統合して医療を提供したいという思いが込められている。「総合病院の専門性を高い次元で統合する」。その実現をめざして誕生したのが同科なのだ。
 各科の高い知識と技術を結集し、さらには患者のゴールを見据えた総合的な医療をめざす。それが統合内科の役割だ。臨床研修センター長を務める露木幹人医師は言う。「高度な専門知識を持った医師たちが、より高いレベルで統合性を発揮し、病院全体が総合医として機能する。その意義はとても大きいと感じています」。

 

診療科の垣根がない統合内科だからこそ広い視野が養われる。

30166 同院の統合内科がめざしているもの。それは診療だけに留まらない。立枩医師のような総合的な視点を持つ「医師の育成」も大きな目的のひとつだ。今までの医師の教育は、生命の維持に主眼が置かれてきた。「どれだけ命を繋いでいけるかが第一の価値観だった」と津下副院長は述懐する。「今では、生活が成り立ち自立できる状態を維持して初めて意味があるという考え方に移行しつつあります」。統合内科は、こう30155した考え方を尊重し、総合的な視野を養うための格好の教育の場だといえる。
 統合内科では、内科系の7つの科が統合したことで、同科の医師たちは診療科の垣根を超えて横断的な知識を獲得できる。従来の臨床研修制度では、2年間の初期研修が終われば、専門科に入る。一方、同院では、臨床研修制度で得た初期診断の知識を、後期研修の1年間でもう一度学ぶことができる。内科医に求められる総合的な視点を充分に養った上で、それを下地に自らが志向する専門性を高めていけるのだ。患者のゴールを意識し、総合的な問題解決をめざそうという考え方が自然と醸成されていくという。
 ただ、総合的な視点を持つ医師の育成には、その視点を守る環境が大事だと露木医師は話す。「一般的に、基本的な臨床能力を初期研修で学び、次に専門をめざしたとき、上級医から専門分野に重きを置く圧力がかかりやすい。その片寄りを軽減するだけで、その後の成長がずいぶんと違ってきます。せっかく2年間で身につけた総合的な視点という土壌を、きちんと守ってあげることが何より大事です」。
 さらに同院では、総合的な視点を養うための「CCIE」を開設。この「CCIE」とは、「CenterforContinuingInterdisciplinaryEducation」の略で、医療従事者の職種の垣根を超えた教育を司る組織だ。統合内科の試みは、医師に限定された教育システムだが、「CCIE」はその対象を看護師、事務職といった多職種に広げ、「病院全体で患者に何をすればいいのか」という視点から幅広い教育を行っている。

 

総合医の育成を通じて安心して暮らせる地域医療を構築したい。


30013 社会保険中京病院は、今、変革の真っただ中にある。旧社会保険庁の解体を受け、平成26年4月からは新組織の下、「地域医療機能推進機構中京病院」として新たな船出を迎える。そんな同院がめざすのは、「総合力を持つ専門医の育成拠点」という新たなミッションの確立だ。そして、同院がめざす総合医の育成は、急性期医療から回復期、療養期、介護までを結んだシームレスな医療サービスを提供する「地域医療・地域包括ケア」の構築へと繋がっていく。
 絹川常郎病院長の思いは、同院の名称が変わろうとも揺らぐことはない。「中京病院のアイデンティティは、今も昔も変わらず地域に不可欠な病院であり続けることです。総合力を持った医師の育成に力を入れることは、今後も地域に貢献し続けていくための重要な要素のひとつだと思います」。
 地域医療・地域包括ケアの「要」となるべき医療人の育成。その先陣を切る同院の取り組みに、これからの医療のあり方を垣間見た気がする。

 


 

columnコラム

●全国の社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院は、現在、独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構(RFO)の下、全国社会保険協会連合会、厚生年金事業振興団、船員保険会にそれぞれ運営を委託する形で医療サービスを提供している。これらの病院は、平成26年4月から、RFOを改組して発足する独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)が直接運営する病院グループとなる。社会保険中京病院も、このグループの病院として、4月から「地域医療機能推進機構中京病院」へと生まれ変わることになる。

●社会保険中京病院は、昭和22年12月に開設された公的病院だ。名古屋市南東部、知多半島の一部をカバーする急性期病院として、60年以上の歴史を積み重ね、今や地域に欠かせない存在となっている。新たな組織下で再スタートを切る同院だが、今まで培われてきた「地域密着」の精神は、今後も揺らぐことなく受け継がれていくことだろう。

 

backstage

バックステージ

●急性期病院に救急搬送され、退院の時期を迎えても、転院先が確保できなかったり、介護への移行がスムーズに行えないため、患者が行き場を失ってしまう…。今、こうした「急性期病院の出口の問題」が各地で顕在化している。そこで声高に叫ばれているのが、急性期、回復期、リハビリ、介護をシームレスに繋ぐ地域医療・地域包括ケアの構築だ。だが、このネットワークの根幹を担う医師の育成は、立ち遅れているのが実情だ。

●中京病院が取り組む、患者のゴールを見据えた「総合力を持った専門医」の育成は、地域医療・地域包括ケアの実現に向けた“重要なピース”のひとつだろう。高い専門性と同時に、退院後を見据えた総合的な視点を持つ医師が増えていけば、医療のあり方が根底から変わる可能性さえある。同院の取り組みが、これからの医療のあり方のひとつのモデルになるかもしれない。

 

 


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