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病院を知ろう

尾張西部医療圏の医療を守るために。
〈地域貢献の形を突き詰める〉

 

尾西病院


main幅広い範囲で、地域住民の生命と健康、そして、生活を守り続けてきた。その実績を大切に、これからの自院のあり方を見つめ直す。

愛知県稲沢市にある尾西病院。現在は東館改築工事を中心に、病院全体のリニューアルを進めている。これは平成26年度の竣工をめざしたものであり、オープンの際には名称を「稲沢厚生病院」と改め再スタートを切る。そのとき病院としてどういった機能を担うのか。今日の地域医療再編という時代の動きとともに、同院の現状を追う。

変わりつつある地域医療提供体制。

160107 現在、我が国では今後の高齢社会を見つめ、医療提供体制の変革が進められている。これは、人口構造、社会情勢等に合わせ、より効率的な医療提供の仕組みを再構築しようとするもの。入院病床を減らす一方で、診療報酬による経済誘導をもとに、地域の基幹となる急性期病院の淘汰が図られている。
 急性期病院とは、三次救命救急を含め、生命に危機が及ぶような重篤な患者に、密度の高い専門的な診断・治療を提供する病院。医師や看護師の人数、入院日数、さらには、施設・設備など、さまざまな面で高い基準が設けられ、そのぶん診療報酬の点数は最も高160179い。この急性期病院を医療圏に一つ、もしくは二つに絞り、高度急性期病院として位置づけようとするのが、厚生労働省の狙いだ。その動きのなかで、医師の移動が、顕著に現れてきた。大学卒業後の医師は、初期の研修病院として、また、医師供給元である大学医局も、高度な専門医療を追求できる高度急性期病院を選ぶようになったのだ。
 国をあげての医療提供体制再構築は、全国各地で病院間の熾烈な競争を生み出している。尾西病院のある尾張西部医療圏も例外ではない。本医療圏は、愛知県北西部にある一宮市と稲沢市で構成される。これまで、一宮市は一宮市立市民病院と総合大雄会病院が、稲沢市は東を稲沢市民病院、西を尾西病院がカバーすることで一定の均衡がとれていた。
 それを破る動きが出てきたのは平成22年4月。一宮市立市民病院と総合大雄会病院が同時に「救命救急センター」の指定を受けたのだ。また同年、一宮市立市民病院は同圏内にある県立病院の経営管理を受託。高度急性期病院として、尾張西部医療圏では抜きん出た存在になろうとしている。

 

 

尾張西部医療圏にも見え出した影響。

160038 尾西病院は昭和20年に、愛知県農業会尾西診療所として産声を上げる。同23年には、愛知県厚生農業協同組合連合会の発足に伴い移管され、現在に至る。
 尾西病院の一般病床数は199床だ。200床に満たないことで、かかりつけ医制度に基づく特定療養費の対象病院(※)ではなく、地域住民は同院外来を自由に受診することができる。そして、必要ならば入院治療へと続き、急性期治療を受けることが可能だ。救急搬送件数は年間2000件強。稲沢市内では最160019多の受入数を保ってきた。加えて、健康管理センターを併設し、保健事業を展開。さらには、訪問看護ステーション、祖父江地域包括支援センターなど、在宅支援事業にも注力するなど、急性期から在宅まで幅広い範囲で地域住民の生命と健康を守り続けてきた。
 そうした尾西病院にも、医療圏再編の影響は少しずつだが現れてきた。例えば、病床稼働率は90・6%(平成24年度)。199床をフル稼働させることができないでいる。また、救急搬送も昨年度をピークに徐々に減少してきた。すなわち、患者が少しずつ一宮に流れ始めたのだ。
 問題の根幹は、医師の供給が滞ることにある。医師の供給元である大学病院にとって、中小病院にはもう医師は出さないという姿勢が顕著になってきたのだ。同院に現在勤務する医師たちも年齢が進み、若手医師の補給がなければ、救急医療の継続さえも危うくなってくる。
 地域に密着して大過なく過ごしてきた尾西病院。医療提供体制が再構築されようとする今、どのような方向に舵を取るのか。その判断が喫緊の問題といえる。

※200床以上の急性期病院の外来を受診する場合は、かかりつけ医である診療所の医師からの紹介状を必要とし、紹介状のない場合は特定療養費を支払う。

 

高度急性期医療だけで、完結できない。

160145 医療費の莫大な累積赤字、高齢社会での効率的な医療提供を考えたとき、現在行われつつある医療提供体制の再構築、なかでも地域医療の中核となる高度急性期病院を確立し、高度専門治療はそこに集約するというスタイルは、必要といわざるを得ない。
 但し、それだけで良いのだろうか。なぜなら、高度急性期病院ではDPCが適用されている。DPCとは、包括医療費支払い制度方式であり、原則として、一つの疾患に対して短期間に集中治療を行う。すなわち、主疾患の急性期治療を終えた患者には、速やかな退院を求められるのだ。しかしながら、その先の治療や療養を担う病院は、いずれの地域でも多くは存在せず、医療という面から見ると大きな断層が生まれている。
 また、患者が高齢者の場合、複数の疾患を抱えているケースが多い。主疾患を一つ治すだけで、元の生活に戻ることができるわけではないのだ。さまざまな病気を少しずつ治療しながら、住み慣れた地域で自立した生活を送ることができる。そのためには、この患者が今後どういう状況で生活をするのか、そのためには何が必要かといった、快復への時間軸に沿って患者を見つめる病院の存在こそが、これからの社会における医療の鍵となろう。

 

実はすでに内包している「可能性」。

160232 尾西病院の新しい方向性を、眞下啓二院長は語る。
 「当院は規模でいえば大きくはありません。しかし、これまで地域に対して二次救急、急性期医療の提供では一定の実績を残してきました。これからも祖父江町を中心に、二次救急は基本的に全部受ける考えにあります。また、急性期機能を活かし、地域のコモンディジーズ(頻回に発症する疾患)にはきちんと対応していきます。
 そのうえで、再構築されようとする地域医療のなかで、傍観者でいるのではなく、この地域で何を担保しなければいけないか、そのとき当院をどう位置づけていくのか。地域貢献の形を突き詰めて考えたいと思っています。
 例えば、急性期病床、療養期病床の見直し。尾張西部医療圏では、高度急性期治療を終えた患者さんに、継続治療を提供する病院が限られています。患者さんが安心して生活に戻っていくには、集中的ではないが濃厚な医学管理が必要な亜急性期、在宅復帰をめざしたリハビリテーションが必要な回復期、そして、病状は安定したものの継続的な医療提供が必要な療養期など、快復への時間軸に沿った治療=病院も不可欠です。そしてそのうえで、在宅療養支援も欠かせません。高齢社会におけるその意味の重要性を考えたとき、高度急性期病院のその先の機能を担うのは、地域と密接な関係を結んできた病院こそが適任ではないでしょうか。幸い当院は、すでに現在、在宅支援部門もアクティブな活動をしています。
 その際に課題となるのは、医師の獲得です。但し、従来のような一つの臓器しか診ないという専門医ではなく、患者の全身を見つめて診断し、今後の生活背景を考慮した上で必要な治療へと繋いでいく総合医が必要です。その獲得においては、例えば厚生連の他病院や、地域の高度急性期病院と連携が図れるのではないかと模索しています。つまり、もし当院が地域での生活をも支える病院と位置づいたなら、今日医療界で必要とされている総合医の教育の場として機能できるからです。研修医が一定期間、当院で学ぶことが継続すれば、医師の拡充にも繋がります。
 いずれにしても、地元である祖父江町を中心とした稲沢市西部ならびに尾張西部地域を偏った医療の地域にしないために、病院全体、また、地域との会話を進め、当院こそが歩める方向性を見出していきたいと考えます」。

 


 

columnコラム

●尾西病院は、稲沢市の中核的な病院の一つとして、これまで地域医療に貢献を果たしてきた。現在は、二次救急病院として年間救急搬送約2000台を受け入れ、救急・急性期医療を展開。一方で、精神科病床、療養病床をも備え、裾野を広くし地域に密着した医療提供を実施し続けている。また、災害拠点病院でもあり、地域における核となる存在といえよう。

●加えて、保健事業としての健康管理センターを設置。予防医学にも力を注ぐなど、病気を治すだけではなく、病気にならない、あるいはより早期に病気を発見し、より速やかな治療へ繋ぐなど、住民の健康を支える機能も発揮している。

●さらには、訪問看護ステーションそぶえ、介護保健事業所、祖父江地域包括支援センター、ヘルパーステーションえがおを開設。急性期から在宅までの切れ目のない医療提供を果たしている。

 

backstage

バックステージ

●病院において「医師」は不可欠だ。極端にいえば、どの水準の医師がどれだけいるかで、病院の経営はまったく異なってくる。

●医療提供体制の構図が変化する今、問題は、その医師たちの「意識」である。医師は大学医学部、あるいは医科大学で、臓器別の急性期治療に焦点を絞った教育を受けている。そして、病院においても臓器別に専門特化し、医師としての能力を磨いていく。そうした生い立ちを持つと、急性期が医療の中心であり、その後の亜急性期、回復期、そして療養期は、レベルの下がったものと見る傾向となる。

●患者にとって、生命を繋ぐことと生活を取り戻すことは、切り離されてはいない。特に今後、高齢社会においては、自立して生活を維持するための医療はとても重要になる。地域が「医師」に求めるものは何か。尾西病院の今後において、医師の意識改革への解答を期待したい。

 

 


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