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アーカイブTOPタイトル12LINKEDは前号で、「地域が一つの病院のように機能するために!」と銘打ち、基幹病院と診療所の間に存在すべき中間的な病院に焦点をあて、基幹病院と中間的な病院の間で結ばれつつある新たな連携の動きを探った。
そこで見えてきたのは、中間的な病院における医師不足と、それにより中間的な病院として求められる病院機能を発揮できず、結果、基幹病院との連携がなかなか進まない現実であった。そこで今号は、「病院」というフレームから一歩進めて「医師」へと視点を移し、地域が一つの病院のように機能するために、今、どんな医師が必要とされているのかをレポートした。
※LINKEDでは、三次救急、もしくはそれに準ずる機能を有する地域の医療機関を「基幹病院」と称し、基幹病院と診療所(在宅)の間にあって、二次救急のできる急性期の医療機能を持ちつつ、それに続く亜急性期・回復期等も併せ持つ病院を、「中間的な病院」と総称する。


01
起

専門特化とセーフティネット

 「具合の悪いところがいろいろあって、いくつもの診療科を受診しなければならず大変」「たくさん検査した後、これはうちの科の病気じゃないと言われ、他の診療科に回された」。病院を利用するなかで、最近こんなことを経験したことはないだろうか?10074
 こうしたことの原因は、診療科が専門別に細かく分かれ、専門医は自分の分野だけを診るようになってきたことにある。ではどうしてそうなったのか。理由は、医学のめざましい進歩にある。大学医学部の教育は、それに対応するため再編成され、専門領域ごとに医療技術を深く追究。医師たちは臓器別に学ぶようになっていった。「昔は専門領域を持ちながら、総合的な視点を持つことができました。しかし今日では、それが許されないほど、医療技術が先鋭化、先端化しています」と、名古屋大学医学部附属病院(以下、名大病院)の植村和正教授(卒後臨床研修・キャリア形成支援センター長)は語る。
 一方、「専門治療は終わったからと、退院を迫られたが、その後の療養生活の目処が立たず、途方に暮れた」という話を見聞きしたことはないだろうか?
920073 その背景には、今日の医療制度では、基幹病院においては主疾患を定め、短期集中的に治療を行うことが求められていることが挙げられる。
 だが、高齢社会の進展に伴い、一つの臓器を治して命を救えば終わりという時代ではなくなってきた。高齢者の多くは複数の疾患を抱えるケースが多く、退院後の生活に対する不安も大きい。そうした患者には、病気・生活・社会など、総合的な視点から問題を解決していくことが必要だ。それは臓器別専門性だけでは対応できない。
 名大病院・総合診療科の伴信太郎教授は、「医療の進化と同時に、そのセーフティネットとして、“病院総合医”が必要不可欠」と語る。伴教授が語る病院総合医。実は近年、医療界でクローズアップされている存在である。特定の臓器や疾患に限定することなく、幅広い視野で患者を診る内科医を指し、専門特化しすぎた今日の医療で生じている、さまざまな問題を解決する可能性があると注目を集めている。(病院総合医は病院で活躍する総合診療専門医で、総合診療専門医には地域で活躍する家庭医も含まれる)


 

 

 


 

02

承

病院の機能によって変わる位置づけ

80186 病院総合医は、どのような働きをするのだろうか。明確な定義は現在定まっていない。そのなかで地域医療機関からLINKED編集部が情報収集したところ、大別すると二つの位置づけがあるようだ。一つは、どの診療科の病気か解らない患者の全身を診て的確に診断し、然るべき専門医につなぐ役割である。たとえば、名古屋第二赤十字病院・総合内科では、自らを「診断をつける科」と称し、不明熱(原因の解らない発熱)、全身倦怠感など、具体的な病気を特定し難い症状を訴える患者を一手に引き受け、高い診断能力を発揮。その病気に対応できる専門診療科へと確実につないでいる。
926233 もう一つの役割として、同院の野口善令医師(総合内科・部長)は、「患者のマネジメント」をあげる。「たとえば、誤嚥性肺炎などで入退院を繰り返す高齢者がいらっしゃいます。病院と家を何度も行き来するのは大変なので、在宅療養を希望するというのであれば、それに必要な社会資源は何なのか、どのように利用すればよいのかを多職種を交えて考えていきます。さらに、ご本人にとってどうなるのが一番望むことなのか、場合によっては積極的に治療しないという選択肢も含めて、患者さんやご家族のニーズを引き出しながら、極論として、人生の終焉の迎え方を話し合うことも必要になります。つまり、ご本人、ご家族にとって一番望むアウトカム(結果)になるような提案をしていくことが重要です」。すなわち、患者の社会的背景も理解した上で、最適な治療をアレンジし、患者の退院後の生活へとつないでいく。そんな総合的な問題解決力を提供する存在だ。
 専門診療科の狭間を埋める役割と、患者の治療を総合的にマネジメントする役割。病院総合医にはこの両方が求められる。
 専門医療が主になる基幹病院では、前者の機能がより必要とされる。そして、専門医が揃わない、また、医師数自体が不足しがちな中間的な病院では、前者と後者、両方の機能が必要とされる。
 こうして見ると、病院総合医とは、個々の病院の地域における機能によって、位置づけが異なる。と同時に、施設医療と在宅医療をつなぐ立場にある中間的な病院に、よりその必要性が高いことが解る。


 

 

 


 

03

転1

試行錯誤を繰り返す臨床教育現場での挑戦

70101 病院総合医は、どのように育成されているのだろうか?  
 名古屋大学医学部では、1998年、伴教授の就任とともに、中央診療部門の総合診療部として発足、総合診療医の育成を本格的にスタートさせた。同診療部は2011年から総合診療医学講座(病院では総合診療科、以下、名大総診と表記)となり、「人間の健康を大局的に見てアプローチする“総合する専門医”」の育成をめざして、さまざまな関連病院・診療所で研修するジェネラリスト養成プログラムを用意している。また、同大学の卒後臨床研修・キャリア形成支援センターでも、総合診療能力の養成に力を注ぐ。植村教授は「総合診療科と老年内科も含めた総合内科研修に力を注いでいます。今はあまりにも専門医が多くて、病院総合医が少ない。育成の仕組みを、量、質とも充実させなくてはならないと考えています」と語る。
 医師の臨床教育を担う基幹病院もまた、病院総合医の育成に乗り出している。社会保険中京病院の統合内科では、各内科系診療科の上級医師と後期研修医(※1)が一緒に治療するスタイルを取り研修医教育に注力。「一般に、初期研修を終えた医師は、すぐ臓器別専門診療科に分かれていきます。それでは、2年間で学んだプライマリ・ケア(病気の初期段階で総合的に診る医療)を活かすことができません。当院の統合内科は今まで学んだ知識を活かしつつ、内科医の基本を深め、さらに専門領域も学んでいく場所として機能しています」と、同院の露木幹人医師(腎・透析科部長・生涯教育センター長・臨床研修センター長)は語る。
103029 加えて、新たな取り組みも始まっている。たとえば、名大総診は岐阜県中津川市と連携し、寄附講座(行政や企業が大学に寄附をし、大学はその寄附で研究や教育活動をするもの)を開設。同時に、中津川市地域総合医療センターを開設し、名大総診の医師をトップに据え、病院総合医や家庭医をめざす医学生、研修医を迎え入れ、地域志向の高い医療人の育成に取り組んでいる。
 また、名古屋市立大学(以下、名市大)では、近隣の大学と協力し、高齢者が自分の住む地域で暮らせる社会をめざすモデル事業「なごやかモデル(※2)」に着手。名古屋市緑区の鳴子団地に「コミュニティ・ヘルスケア教育センター」を設けて、病院総合医の育成を実践していく計画をスタートさせた。

※1 医学部を卒業して2年間の研修を受ける医師を初期研修医、その後、専門的な科目において研修を受ける医師を後期研修医という。
※2 「地域と育む未来医療人『なごやかモデル』」は、文部科学省「未来医療研究人材養成拠点形成事業」の「テーマB:リサーチマインドを持った総合診療医の養成」に選定されたモデル事業。


 

 

 


04

転2

病院総合医育成の課題と、もう一つの視点

40023 病院総合医を育成する枠組みはできつつあり、画期的な取り組みもスタートしている。しかし、「そもそも病院総合医をめざす学生そのものが少ない」と嘆く声が多い。なぜ、病院総合医をめざす人が少ないのか。「専門医には、自らの専門を深め、何年か経てば診療科の部長へ、将来は院長へ、というキャリアパスが見えています。しかし、総合診療科や老年内科に進んで、将来自分がどうなれるか、というキャリアパスがまだない。だから、学生たちはなかなか決心がつかないのではないでしょうか」と、名大・植村教授は指摘する。同大学・伴教授は「名古屋市近郊の病院だけでも、10カ所以上から病院総合医がほしいという申し出を受けています。だけど、人がいないから出せないのです。希望者には派遣後にまた大学に戻り、その先にいろいろな道が拓けることを提示していかなくてはならない」と、苦しい胸の内を明かす。
103036 また、今のままでは「高齢化のスピードに、医師育成が間に合わない」と危惧する声が聞かれる。名市大病院総合内科・部長の大原弘隆教授は、諸外国の現状を参考にして「総合医の必要数は、医師全体の2〜3割。すなわち、6万人程度(家庭医も含む)必要ではないか」と分析する。現状のままでは到底、その数を達成できない。そこで、同院が今、病院総合医の育成と並んで力を注いでいるのが、総合医療能力を持つ専門医の育成である。「純粋な病院総合医を育てること、これはとても重要です。でも、それだけではこれからの日本の医療は支えていけないのではないかと。だから、専門をやりながら総合力を高める、言わば総合診療マインドを持った専門医を育てることができるシステムを並行して構築する必要があると考えています」と大原教授は語る。


 

 

 


 

05

結

点を線に、そして、面に広げる

30026 超高齢社会を迎えた今、病院総合医、総合診療マインドを持った内科医の育成を急ピッチで進めなくてはならない。重要なカギを握るのは、医師の初期教育だろう。近年、新医師臨床研修制度(※)における臨床研修プログラムの必須項目として、「地域医療」が設けられた。
 専門診療科の狭間を埋める役割を学ぶには、それをより必要とする基幹病院がふさわしい。一方、患者の治療を総合的にマネジメントする役割は、中間的な病院でこそ学ぶことが多い。そういったなかで、実際の研修医たちの進路は基幹病院に集中、中間的な病院の多くは、臨床研修病院として指定されてはおらず、また、指定を受けていても研修医獲得に苦戦しているのが現状だ。西尾市民病院の禰宜田(ねぎた)政隆院長は言う。「医療資源の限られた当院で、市民の期待に幅広く応えていくには、医師一人ひとりに広い知識を持った総合的な診療が求められます。本来であれば当院こそが総合診療マインドを学ぶ場としては最適であると考えますが、研修医はなかなか獲得できません。総合診療マインドのある内科医の獲得と育成が急務の課題です」。同じように、医師確保に苦戦を強いられている愛知厚生連・渥美病院の長谷 智院長も、「当院ではすべての内科医が、専門にかかわらず、内科系疾患を幅広く診ています。ぜひそういう点を研修医たちに評価してもらって、充分に力を発揮できる医師に来てほしいですね」と話す。
 今回見てきたさまざまな事例を考えると、基幹病院と中間的な病院が連携して、基幹病院に集まる初期・後期研修医に、中間的な病院で総合性を学ぶ機会を提供し、そこに大学の総合診療のスペシャリストたちが参加して教育を行うような仕組みを作れないだろうか。すなわち、基幹病院・中間的な病院、そして大学が連携した二次医療圏ごとの合同教育プログラムを創り、その魅力で研修医を全国から獲得するというもの。個々の病院が「点」で行っていた教育を「線」にし、さらに「面」として展開するという考え方だ。そこで生まれた病院総合医や総合診療マインドを持つ専門医のために、新しいキャリアパスを作ることができれば、若い医師たちは自分のめざす将来像に合わせて、安心して研鑽を積むことができるのではないだろうか。 
 我が国では、最先端技術で命を救う医療施設は、二次医療圏ごとでほぼ充足されつつある。だが、地域の生活を守る医療施設は、今後より重点的に整備することが必要と考えられる。地域があたかも一つの病院のように機能するためにも、患者・家族・地域を見据え、適切な治療への道筋を総合的な視点でアプローチする病院総合医、もしくは総合診療マインドを持った専門医は、不可欠な存在となろう。

※医師資格を取得後、医師は病院で2年間の初期研修を受けることが義務化された。その際、従来は大学医局によって決められていた研修先を、医師が自由に選ぶことが可能となった。


 

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元厚生労働副大臣 大塚耕平/
「総合的専門医」と「専門的総合医」

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私たちは忘れない、3.11を。

東日本大震災に遭遇した一人の医療人から、地域医療への熱く、そして、冷静な眼が、私たちが3.11の教訓から学ぶことの大切さを教えてくれる。

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SPECIAL THANKS(編集協力)

「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。
(※医療機関名はあいうえお順です)

愛知医科大学病院
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市立伊勢総合病院
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藤田保健衛生大学病院
松阪市民病院
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※読者の皆さまへ
<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局広告開発部とPROJECT LINKED事務局・HIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

企画制作:中日新聞広告局

編集:PROJECT LINKED事務局/有限会社エイチ・アイ・ピー

Senior Advisor/馬場武彦 

Editor in Chief/黒江 仁
Art Director/伊藤 孝
Copy Director/中島 英
Planning Director/吉見昌之
Copywriter/森平洋子
Photographer/越野龍彦/加藤弘一/ノマド/ランドスケープ
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