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シアワセをつなぐ仕事

急性期病院から地域へ患者を繋ぐ、
CLN(クリニカル・リーダー・ナース)への挑戦。

大口真由/春日井市民病院 循環器科・心臓血管外科病棟


 

main在院日数の短縮化、患者の高齢化が進むなか、急性期病院では、
患者を地域へ繋げる医療、看護が求められている。この問題に対して、
年間約9600件の救急搬送患者を受け入れる春日井市民病院では、
看護の力を再検討。退院後の生活にまで眼を向けたケアマネジメントを行い、
患者がよりスムーズに地域での治療、そして、生活に戻ることができるよう、
CLN(クリニカル・リーダー・ナース)の育成を計画した。
平成24年度から教育を開始し、大口真由看護師はその第1期生である。


急性期病院の「看護の力」をさらに進化させるために。
「幅広い視野で患者を看る看護のジェネラリスト」育成に力を注ぐ。


 

CLNの役割とは何か、手探り状態での挑戦。

_H8433 平成25年9月、最後の口頭試問を終え、CLNの第1期生として優秀な成績で研修を終えた大口真由看護師。平成19年、名古屋医療センターに入職し5年間勤めた後、地元・春日井市の春日井市民病院へ移った。CLN導入の計画が始まったのは、彼女が病院を移ってまもなくだった。病棟師長に「向いていると思うから、受けてみては」と勧められたのがきっかけで、研修生募集に手を挙げた。
 CLNには、領域を問わない広い範囲の知識とスキルを持つジェネラリストとして、患者の全体を把握しながらのケアマネジメントと、チームを引っ張る強いリーダーシップが求められる。研修の受講には一定のクリニカルラダーレベル(看護実践能力)をクリアしていなければならず、教育を受けるのは、選抜されたメンバーだ。そして教育は、①ケア、②チーム、③リスク、④経営の領域を柱とし1年半行われた。夜勤も含め、通常の病棟勤務を続けながらの研修は厳しく、途中で断念する受講者も出た。
 CLNに取り組んでいる病院は日本ではまだ少ない。大口看護師は研修前、CLNとは何か、なかなかイメージができなかったという。看護部長から「患者さんと医師・看護師を繋ぐ橋渡し的な存在」、「スタッフ育成の要」などの説明は受けたが、実際に自分がCLNになったときどう動くべきか、ハッキリと分からないまま、手探りの状態で足を踏み入れた。「CLNとしての自分に求められているものは何なのか、現場に立ったときの自分を一生懸命イメージし、研修に臨みました」と振り返る。

より広い視野で、看護を考える。

_H8470 大口看護師が、CLNに求められる能力とは何かを理解し始めたのは、研修を始めて1年が過ぎた頃だったという。「医師や看護師と患者さんをただ繋げるだけでなく、より良い時期、より良いタイミングでケアをプランニングしていく。ケアマネジメントの〈マネジメント〉という言葉の意味を、考えるようになりました」。
 急性期病院では、病院内だけで治療を完結するのではなく、地域医療機関や在宅サービス事業所などとの連携が前提となる。患者のなかには、退院してからも継続しなければならない治療があり、病院でどこまでのケアをすれば、退院後の生活がスムーズに送れるのか、視野を広げて、患者を急性期病院から地域へ「繋ぐ」看護を考える必要がある。
 「短い入院の間に、患者さんのその先の生活を見越した調整やアドバイスをしていくには、専門・認定看護師、退院支援など、病院内の人材や機能をフルに活用し、患者さんにとって一番効果的な方法を考えていかなければなりません。そのためには、看護の知識だけでなく制度や病院経営的なことも含めた管理の視点も必要なのだと知りました」。
 研修を終え、CLNとして実際に現場に出て数カ月。病棟スタッフが患者への対応に困ったときの相談を受けたり、患者の退院後の生活を見据えたアドバイスを行うなど、CLNの存在感を少しずつ病棟に浸透させている。「患者さんのベッドサイドにいる時間をなるべく増やし、どんなケアが必要なのかを考え、それを病棟スタッフに還元していくところから始めようと思います」。大口看護師はCLNとしての第一歩を、いま、踏み出したばかりだ。

患者一人ひとりに、オーダーメイドのケアを設計。

_M0115 春日井市民病院のCLN導入は、鈴江智恵看護部長が平成23年、第15回日本看護管理学会で坂本すが大会長からCLNの考え方を聞いたのがきっかけとなった。
 地域完結型の医療が進むなか、急性期病院には地域へ患者を「繋ぐ」医療が求められている。春日井市民病院では日替わり受け持ちの体制で看護サービスを行っているが、この体制では、患者や家族が、自分の担当看護師が誰なのか解り難い。鈴江看護部長は「患者さんのことを一番よく知っている看護師が誰なのか解らない体制で、果たして患者さんを本当に良い形で責任を持って地域に繋ぐことができるのか、ずっと疑問に思っていました」と話す。
 同院のCLNの概念は、「患者のケア管理を専門とした、チームマネージャーの役割を担う看護師」だ。患者のことを一番よく知っているジェネラリストとして、認定・専門看護師らスペシャリストを活用し、患者一人ひとりにオーダーメイドのケアを設計できる人材。患者に本当に信頼される看護を追求していくためのキーパーソンとして、CLN育成を計画したのだ。
_M0214 一方でCLNの育成には、病棟師長の膨大な仕事を機能分化する狙いもある。現在、師長が行っているケアマネジメントの仕事をCLNに権限委譲することで、人材育成・労働管理といった師長本来の仕事である病棟管理に集中できるようにするのだ。さらに、24時間ベッドサイドでケアを提供している中高年のベテラン看護師のキャリア支援も視野に入れる。
 これまでの看護体制を変え、患者をより良い形で地域へ繋ぐ、それによって看護師のモチベーションもあげる。「本当に良い看護は、仕組みを作らなければ実現しない」と鈴江看護部長。「看護とは何か」を追究する強い思いが制度導入を実現させた。

患者の全身を看ることのできる看護師を育てる。

_M0078 研修では、患者の全身状態を把握できる看護師を育てるため、問診・打診・視診・触診などを通して、実際に患者の身体に触れながら症状の把握や異常の早期発見を行う、フィジカルアセスメントに力を入れた。講師として研修生を指導した渡部啓子医師(内科・臨床検査部長)は、「常に患者さんの横にいて、その異常にいち早く気付くことができるのは看護師です。看護師が患者を観察し身体所見、異常所見を取って医学用語としてカルテに記載できれば、医師は治療に早く繋げることができる」と話す。
 看護師におけるフィジカルアセスメントに必要なのは、認定・専門看護師のように部分を看るのではなく、患者の全体を看ること。実習は1グループ5〜6人に分かれ、一人ずつ患者を実際に診察し、渡部医師の所見と照らし合わせながら進めた。
_M0266 CLN育成にあたり、鈴江看護部長のもとで受講生たちをサポートしたのが上村睦美副看護部長だ。「CLNには看護の知識だけじゃなく、管理・経営的な視点でのものの見方も求められます。そうした部分でのアドバイスをしながら、1年半という長い研修期間、研修生が気持ちを継続させられるよう、サポートしました」。
 CLNの病棟への配置は、交代勤務制で1病棟に4人ほどを計画している。第1期の修了生は30人、今後、2期、3期と募集をかけ人数を増やしていく。上村副看護部長は「CLNが、看護師の視点で患者さんを看て、医師に的確な情報提供、報告をしていくことで、患者さんが看護の力を感じてくれれば一番いいですね」と話す。また、渡部医師は「実習、講義を終え、1期生のCLNはいま、スタートラインに立ったところです。医師の指示を本当の意味で理解し、医師とディスカッションできるくらいの看護師がでてきてくれれば…」と話す。
 これまでの看護サービスシステムを変え、責任を持って患者を地域に繋ぐことができる看護体制を実現させる。春日井市民病院の新しい取り組みは、いま、始まったばかりだ。


 

 

 

column
コラム
●春日井市民病院は、尾張北部医療圏にあり、人口30万人の春日井市を中心に、小牧市や岐阜県多治見市、名古屋市守山区・北区からも患者が集まる。

●救急搬送件数は年間9000台を超え、尾張北部医療圏でNO.1、愛知県内でも屈指の実績を有する。

●同院では、診療科・医師の補強、DPC(医療費の定額支払制度)の導入など、さまざまな院内改革を推進し、いずれもが功を奏してきた。近年では、敷地内に、市民の総合的な健康づくりの拠点であり、休日・平日夜間の急病診療施設「春日井市総合保健医療センター」の整備にも尽力。常に先駆の精神で、積極果敢な取り組みを展開する。

●そうした同院の看護部においても、先駆の精神は息づいている。看護師の柔軟な勤務形態の構築、ワークライフバランスへの挑戦など、看護師一人ひとりの充実した毎日、ひいては地域への良質な看護の提供に力を注いでいる。

 

 

backstage

バックステージ

●今日では、医学のめざましい進歩に伴って、診療領域が細分化し専門特化してきている。それに歩を揃えるように、看護の領域でも専門分化が進んできた。

●認定看護師、専門看護師など、一定の領域の高度な看護知識・技術、それに伴う機能・役回りも明確になり、「スペシャリスト」の活躍は大きな注目を集めている。

●そのスペシャリストに対して、急性期はもちろん、その先に必要な継続ケア、さらには、在宅での生活において必要なケアを、総合的にマネジメントする看護師、すなわち「ジェネラリスト」として、春日井市民病院は「CLN」を院内資格として整備した。

●「ジェネラリスト」の使命は、患者一人ひとりのオーダーメイド・ケアの設計である。常に患者のそばにいるからこそ可能となる、総合性あるケアマネジメント。患者や家族にとっては大きな安心感を持つことができよう。

 

 


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