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 病院を知ろう

豊川市の病院から、東三河の中核病院へ。
自治体病院の新たな挑戦。

 

豊川市民病院


main豊川市、そして東三河北部医療圏まで。
医療圏を超えて、幅広いエリアの地域住民の期待に応えていく。

東三河南部医療圏に位置する豊川市民病院は、人口18万人都市・豊川市の中心的な病院である。
しかし実際は、同院の診療圏は医療資源の少ない東三河北部医療圏まで広がり、両医療圏合わせ年間合計30万人を超える外来患者が来院している。
広域の地域医療を守り、支えるために、同院はどんな方策を打ち出しているか。
新築移転を機に、新たな一歩を踏み出した同院の現状と将来構想を探った。

平成25年5月、新・豊川市民病院が始動した。

IMG_4481 名鉄豊川線八幡駅に隣接する好立地に、平成25年5月1日、新・豊川市民病院がオープンした。診療科は28科、病床数は一般病床101床を増床し、合計554床(一般440床・精神106床・結核8床)に。1階に救急センターを、3階にICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)を整備すると同時に、最新の医療機器を導入。さらに、血液内科や腎臓内科を充実させるなど、ほとんどすべての医療をカバーできる急性期医療体制と高度な救急医療体制を確立した。
 また、鉄骨9階建ての建物は免震構造を採用し、災害拠点病院としての機能も拡充した。平面駐車場の一角には、ヘリポートを完備。治療に用いる酸素配管設備を待合スペースや講堂にも備え、災害時に診療フロアとして使えるように設計されている。停電時の自家発電設備を備え、水は地下水利用システム導入を計画している。食料については、病院の備蓄分に加え、院内のコンビニエンスストアからの緊急支援物資も活用する計画で、ライフラインの備えも万全だ。
 新病院に移転し、救急をはじめとした医療機能はもちろん、災害拠点病院の機能も充実。将来、想定される巨大地震の際も、東三河全体の緊急司令基地の一つとして機能できる態勢が整えられた。

 

11年前からスタートした新病院開設への準備。

IMG_4340 念願の新病院ができ、吉野内猛夫院長は感慨深く、これまでの道のりを振り返る。吉野内院長の赴任は平成15年 (平成21年、院長就任)。その前年に、新病院の建設検討委員会が発足した。
 今でも鮮明に思い出すのは、赴任したときの第一印象。古くて手狭になった施設、待合室にあふれる患者、医師の業務は多忙を極め、みな疲れた表情をしていた。「少ない医師に過重労働の負担がかかっているのは、一目瞭然。これは、なんとかしなくてはならないと思いました」(吉野内院長)。さっそく医師の負担を軽減させる施策が練られた。まず、それまで医師が行っていた事務作業などをすべて見直し、コメディカルスタッフに振り分けた。医師が本来の診療に専念できる体制を作り、一人ひとりの余裕を少しずつ確保していった。
IMG_4350 同時にこのとき、ちょうどタイミング良く新医師臨床研修制度がスタートする。なんとしても研修医を集めたい。それには、教育プログラムの魅力でアピールするしかない。吉野内院長をはじめ病院幹部は研修医の立場になってプランを練り、研修する診療科の自由選択を増やし、希望するさまざまな診療科で幅広い実力を身につけられる教育プログラムを作り上げた。幸い、この研修プログラムは研修医から好評を得て、毎年のように研修医を獲得。また、大学医局にも積極的に医師の派遣を働きかけ、多忙な診療科に医師を補充することもできた。こうした努力が実を結び、気がつけば、病院の医師は約10年間で30名も増えていた。「当院で初期研修を受けた若い医師がほとんどうちに残ってくれています。とてもありがたいことです」と吉野内院長は話す。ちなみに同院では、平成23年にNPO法人卒後臨床研修評価機構の厳正な審査を受け、認定(認定期間4年)を取得している(※)。
 このときにスタートした医師教育は、新病院の大きな柱の一つともなっている。新病院では、研修医が安全で質の高い技能を身につけるための「シミュレーションセンター」を開設。高度化する医療技術に対応でき、質の高い医療を提供できる優秀な医師の育成にこれからも力を注いでいく方針だ。
※ 卒後臨床研修評価機構は、臨床研修を評価する唯一の第三者機関。認定期間は2年間・4年間・6年間の3種類があり、臨床研修体制が優れているほど、認定期間が長く設定される。

 

医療機能が低下している東三河北部医療圏をカバーするために。

IMG_2610 病院の新築移転を機に、ここまで高度な病院機能を充実させた背景には、診療圏の問題がある。同院は東三河南部医療圏に属しているが、実際は東三河北部医療圏の患者も多く引き受けているのだ。
 きっかけは、東三河北部医療圏の地域医療崩壊の危機だった。北部圏域はもともと医療資源が不足していたが、その中核機能を担っていた新城市民病院が、深刻な医師不足に陥った。新医師臨床研修制度が始まり、研修医が研修先を自由に選べるようになったことから、大学医局が自分の大学病院の医師を確保するため、これまで派遣していた病院から医師を引き揚げたのだ。これによって新城市民病院は救急医療の縮小を余儀なくされ、平成18年には産科も休止したため、東三河北部医療圏には、お産のできる医療機関がなくなった。
IMG_4387 行き場を失った東三河北部医療圏の患者は、一気に豊川市民病院にも押し寄せるようになった。同院のベッドは常に満床状態。新病院がオープンする以前の病床稼働率は100%を超えることが多く(平成24年度実績101・2%)。ベッドが満床のため、救急患者を受け入れたくても断らざるを得ないケースも増えた。このままでは、地域医療を守ることはできない。吉野内院長は覚悟を決めた。「高度な急性期医療機能が低下した東三河北部医療圏。それを補うには、当院が今以上に高度な急性期医療を担っていかなくてはならない。そう考えて、新病院づくりを進めてきました」と話す。
 同院では現在、新城市周辺から搬送される二次・三次の救急患者を積極的に受けると同時に、高度急性期を脱した患者は速やかに新城市民病院へ逆紹介する病病連携を結び、北部圏域の救急医療ニーズに応えている。また、院内助産所(バースセンター)を開設するなど周産期医療の充実に力を入れ、分娩のできる医療機関がない東三河北部医療圏をカバーしている。

東三河の中核を担う病院として高度な医療を提供していく。

Plus顔写真フォーマット 思い描いていた新病院が完成した今、「やりたいことがいっぱいある」と、吉野内院長は意気込みを語る。「北部圏域を含む東三河の中核病院という観点から考えれば、まず第一に救命救急センターの指定をめざしたいと考えています」。
 現在、東三河南部医療圏では、豊橋市に救命救急センターがある。しかし、救命救急センターをもたない北部医療圏をカバーするためには、豊川市に救命救急センターができることが望ましい。「ハード面は整いましたから、あとは救急医の育成。研修医のなかから、救急医療を志す人材が育てば、言うことはありません」と吉野内院長は話す。
 もう一つの大きな目標は、地域がん診療連携拠点病院の指定である。新病院では外来化学療法室を広げ、病棟では緩和ケアチームも稼動。血液内科もでき、すべてのがん疾患に対応できるようになった。地域のがん患者にとって、岡崎市や豊橋市へ足を延ばさなくても、ここで外来化学療法を受けられるメリットは非常に大きい。「地域がん診療連携拠点病院の指定をめざし、着々と準備を進めています」と吉野内院長は意気込みを語る。
 国が進める政策医療として、5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)・5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療)がある。豊川市民病院はこれらすべてを網羅する、政策医療の担い手でもある。吉野内院長は地域医療に求められるニーズをしっかりと見据え、幅広い診療分野でそれぞれに高度な医療を追求しながら、東三河北部医療圏を含む地域医療を牽引していこうとしている。

 


 

columnコラム

●豊川市民病院の病診連携は、豊川市医師会が担うという、珍しいスタイルをとってきた。平成11年、院内に「豊川市医師会病診連携室」が開設され、医師会の看護師と事務員が常駐。医師会と市民病院が患者を相互に紹介し合う連携を進めてきた。医師会と同院の関係は良好で、救急においても、医師会が「軽症の救急患者は全部引き受ける」意気込みで休日夜間急病診療所を運営するなど、緊密な協力体制を築いている。

●医師会との緊密な協力体制をベースに、より広いエリアで病診連携を進めるため、新病院では、病診連携室のなかに病院の職員も配置し、医師会の職員と協働する合同組織に転換し、紹介率・逆紹介率(※)を高め、地域完結型医療を推進していこうとしている。
※ 紹介率は、診療所などの紹介で受診した患者の割合。逆紹介率は、病院での必要な診療を終えた患者を他の医療機関に紹介する割合。

 

backstage

バックステージ

●豊川市民病院の現状から見えてきたのは、二次医療圏と実際の診療圏の間に「ずれ」が生じていることだ。患者の受診行動は医療圏を越えているが、国の基準で二次医療圏ごとに病床数は決まっており、豊川市民病院は今以上、病床を増やすことはできない。また、地域がん診療連携拠点病院の指定も二次医療圏に概ね1カ所と定められているが、患者の安心と利便性から考えれば、制度上の規定が足かせになる場合もある。より実情に即した医療圏を基本に、医療資源の最適化を考えていくべきではないか。

●もう一つの課題は、市民意識の啓発である。豊川市民が市民病院を「私たちの病院」と考え、安易に外来を利用するのではなく、同院が東三河北部医療圏を含めた地域の中核病院であることを正しく理解する。その上で、診療所との使い分けにより、同院の外来の負担軽減に配慮することが、地域医療を守る上で重要なカギを握るといえるだろう。

 


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