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病院を知ろう

「ここに渥美病院があって良かった」。
そう言われるための自己改革が始まった。

 

 

渥美病院


main渥美半島で唯一の急性期病院として、地域の期待に応えるあり方を追求する。

渥美病院は渥美半島のほぼ中央に位置する半島唯一の急性期病院である。昭和10年、住民の出資で開院し、昭和23年に愛知県厚生連の病院となり、現在316床を持つ。今年、同院では急性期だけでなく回復期リハビリテーション、療養期も含めた幅広い医療サービスの提供を検討する抜本的な院内改革に着手した。地域住民の期待に応え、渥美半島の医療を守り続けるため、不退転の覚悟で改革に臨む渥美病院のプロジェクトを追った。

病院のあり方を見直す、プロジェクトスタート

Plus顔写真2 平成25年8月、渥美病院では「病床再編成検討会議」プロジェクトがスタートした。議論の焦点は、病床316床を急性期のみにしている病院機能の抜本的な見直しだ。そしてそれは、今後、地域において渥美病院がどのような機能を果たしていくべきかを問う自己改革の始まりでもある。
 病院を挙げたプロジェクトとあってメンバーは多職種にわたる。長谷智院長を筆頭に医師、看護師、薬剤師、理学療法士、MSWや事務などの職員を含めた全28人の大所帯だ。
 プロジェクトの議長を務める三谷幸生医師(診療部長)は、長谷院長から議長を打診されたときのことを「正直、ややこしいものを頼まれた」と苦笑しながら振り返る。とはいえ、三谷医師も以前から病院の現状には危機感を抱いていた。現在の病院や病床のあり方に疑問を持ち、「なぜケアミックス病院(※)にしないのか」と訴えていた三谷医師。その姿を見た長谷院長が、彼にその任を託すのは当然の成り行きだった。
 実はこのプロジェクトには13人もの看護師が参加している。「病院の一大転機をスタッフに正確に伝えるため、師長を全員参加させて欲しい」との要望が看護部からあったためだ。三谷医師は言う。「確かにこのプロジェクト自体は院長主導で動き出しました。ただ、改革の機運が院内で自然発生的に起こっていることも事実なんです」。
 こうして渥美病院は大きな改革へと舵をきった。

※ケアミックス病院とは、急性期(疾患の発症すぐの重症な状態の時期)の患者と、回復期(病状が安定し、積極的なリハビリテーションを必要とする時期)や療養期(医学管理を行いながら療養する時期)の患者などを受け入れる病院のこと。

 

地域ニーズに応えるため、変わらなければならない。

80201 なぜ、渥美病院はそれほど大きな改革に取り組む必要があったのだろうか。それには、病院をとりまく厳しい状況があった。
 現在、今後さらに進む高齢社会を視野に入れ、厚生労働省により地域医療再編が進められている。そこでは、地域の急性期病院を医療圏に一つか二つに絞って高度急性期病院として位置づけ、それ以外を一般急性期、亜急性期、回復期、療養期のそれぞれを担う病院として再編することが図られている。その理由は医療機能を分化させた上で、地域全体で医療を提供するためだ。しかしこの動きは、医師の新臨床研修制度とも絡み合って新たな問題を生み出した。大学卒業後の医師が、初期の研修病院として、症例の多い都市部基幹病院を選ぶ傾向が出始めたのだ。加えて、医師供給元である大学が、高度な専門医療を追究できる、高度急性期医療機能を有する基幹病院に集中して医師を派遣する流れも強まり、地方の中小規模病院は深刻な医師不足に陥った。
 それは渥美病院においても例外ではない。医師の人材確保が次第に難しくなり、現在勤務する医師の負担が増大、いくつかの診療科で外来・入院診療の一部を制限せざるをえない状況が生まれたのだ。
 80122そうした診療科の縮小により、渥美病院では患者数が徐々に減少していく。一方で、転院先となる病院や介護施設の少ない渥美半島では、患者や家族から「もう少し長く病院において欲しい」との声が多く、入院が長引く傾向がある。そうした継続入院が、患者の減少によって生まれた空床を埋めることと結びつき、結果、病院機能の低下を引き起こしていた。
 患者数の減少や入院日数の長期化は病院経営を圧迫し、再投資を困難にする。結果、病院は地域の医療ニーズにますます応えられない。そこから脱するためには、抜本的な改革にすぐにでも着手しなければならなかった。

 

半島唯一の急性期病院として、果たすべき責務。

80296 渥美病院のある田原市の人口は約6万5千人。豊橋市南部の境界域を含めれば、診療圏の対象人口は約10万人となる。
 しかし、渥美半島には渥美病院の他に急性期病院がない。さらに同院より半島の先には入院病床自体がないという、医療資源の乏しい地域だ。もし心肺停止や脳卒中など一刻を争う状況が半島の先で起こった場合、渥美病院で救急患者を引き受けることができなければ、病院からさらに車で20分以上かかる豊橋まで行くしかない。三谷医師は、渥美病院がその地勢的な制約から逃れられないポジションであることを認めてこう話す。「半島に他に急性期病院がない以上、基本的にはどんな状況になっても急性期を受けられる機能をなくしてはならない」。
 それに加えて、地域のニーズもあると長谷院長は言う。「地域で医療機能を分担すると言っても、こちらは急性期で、こちらは療養期でと、機能分担する他の病院がこの地域にはない。急性期のみならず、亜急性期、療養期もすべてカバーしていかなければならないのが、この病院の宿命であり、地域から期待されていることです」。
 急性期を維持しつつ、それ以外の医療機能をカバーすることを地域から求められている渥美病院。その果たすべき責務は大きい。

 

プロジェクトは改革の序章、住民に選ばれる病院をめざす。

Plus顔写真1 プロジェクトの開始は病院変革への第一歩だ。これまでに開催した2回の会議では、病院としてのいくつかの方向性が議論された。
 現在、急性期病床316床での病床稼働率が低いことから、今後適正な急性期病床数を模索し維持しつつ、さらに来年から導入する「DPC(※)」制度を活用しつつ急性期医療機能の強化を図っていく。その上で、空いている病床をいかに活用していくか。
 「それがこれからの議論です」と長谷院長は言い、こう続ける。「急性期後の受け皿となる施設も地域にはありませんので、回復期リハビリテーション、療養期といった部分も自院で整備し、在宅への道筋をつけていける体制を整える必要があるでしょう」。
80037 今ある病院の人材、資源のどこをどう強化し、その結果を有効活用することで、いかに地域に還元していくのか。プロジェクトの進行とともに、メンバーも改革の必要性を改めて強く意識するようになっている。
 長谷院長は、地域における真のケアミックスをめざし、実践している愛知県安城市の八千代病院から赴任した。「安城エリアと田原エリアでは事情が違います。ですので、そのまま同じことをすればいいとは思っていません」。長谷院長はそう断りつつも、地域における医療の最適化という考え方は渥美病院でも変わらないと考えている。先進的なケアミックスを実践している病院をモデルにしながら、渥美病院はオリジナルの改革に取り組み始めた。渥美半島にとって本当に必要な医療を実現するために。

※「DPC」とは、病名や手術・処置などに応じた診断群分類をもとに医療費を計算する包括払いの会計方式。

 


 

columnコラム

●渥美病院は、昭和10年、農家や地域住民の出資により広域医療利用組合として設立。昭和23年に愛知県厚生連病院となり、地域の中核病院として地域医療を守り続けてきた。診療圏の対象人口は約10万人。平成24年度の診療実績は、救急車搬送数2052件、分娩数243件、全身麻酔手術件数310件となっている。

●内科では消化器内科と循環器内科、外科、整形外科の陣容が厚く、救急医療・高度な集中医療から生活習慣病の管理・健診などの予防医療までカバーする。また、平成25年2月には最新鋭のMRI装置を導入。更なる医療機能の充実も図っている。

●平成12年、現在地への新築移転を機に健康管理センターを拡充、介護・福祉複合施設「あつみの郷」とともに、医療・介護・福祉・保健といった幅広いサービスを提供できる体制を整えた。

 

backstage

バックステージ

●渥美病院は歴史的に、臓器別の専門性にこだわらず患者の全体を診る総合性を持った医師が多く育ってきた。三谷医師は「私自身、渥美病院に来て、医療に対する考え方がまったく変わりました。実際、目の前の患者さんは多くの種類の疾患を抱えており、臓器別の専門性だけでは対応できません。必然的に全身を診ることを勉強するようになります。ここに来る医師は皆、いい意味で幅の深い、懐の深い医師になっていると感じます」と話す。

●渥美病院が歴史的に培ってきたこの特性を活かし、今後、教育研究プログラムに落とし込んでいければ、同院は研修生の絶好のトレーニングの場となるだろう。プライマリ・ケア(初期診療)を学び、総合的な視点を育てる教育研修の場としての渥美病院。同院の改革に大きく期待したい。

 

 


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