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病院を知ろう

治す医療から生活を支える医療まで。
地域へ裾野を広げ、医療と介護を繋いでいく。

 

 

八千代病院


main医療と介護の狭間を埋めるにはどうすればいいか。八千代病院が挑む、在宅医療支援の体制づくり。

前号のLINKED「病院を知ろう」で紹介したように、八千代病院は基幹病院と診療所の間を繋ぐ中間的な病院(急性期、亜急性期、回復期、療養期を担う病院群)として、地域の二次救急、コモンディジーズ(発症する頻度の高い疾患)に幅広く対応すると同時に、高度急性期を脱した患者の受け入れを積極的に行っている。今回は、同院から地域へと患者のケアを継続させる試みに焦点をあて、医療と介護を繋ぐ同院の取り組みをレポートする。

退院後も医療を必要とする患者を精一杯支える訪問看護師たち。

Plus顔写真1「顔を見ると安心するわ」。自宅で療養中の患者や家族から掛けられるそんな一言が、「なによりうれしい」と語るのは、八千代訪問看護ステーションの2代目所長、伊藤多美子看護師である。3年前に八千代病院・看護部長のすすめで、回復期リハビリテーション病棟から八千代訪問看護ステーションへ。初代所長が苦労して築いた看護ステーションを引き継いだ。
 現在のメンバーは、看護師6名、リハビリテーションスタッフ4名(非常勤含む)。その少ない人員で、常時80〜90名の患者宅を訪問している。利用者は医療保険対象者で、約3割は人工呼吸器を使用している方、難病、終末期など医療依存度の高い状態にあり、その数は年々増えているという。「地域に困っている人がいたら、少々無理してでも断らずに応えよう、というのが私たち法人の方針。スタッフは大変ですが、ご家族の信頼に応えたいという思いから、フル回転で頑張っています」と伊藤は明るい笑顔で話す。
 患者を担当する上で伊藤が大切にしているのは、なによりも家族との信頼関係だという。在宅療養は、家族の協力なくては成り立たないからだ。そのため、伊藤は訪問を開始する前に必ず、病院の病棟で行われる在宅カンファレンス(※)で家族にあいさつし、どんなケアをしていくのか丁寧に説明する。「顔と顔を合わせておけば、初回訪問時も“ああ、来てくれたのね”と安心して迎えていただけます。ご家族と一緒に患者さんを支えていくスタンスで、質の高いケアの提供を心がけています」と話す。

※退院前に、今後の在宅療養について検討する会議。病院スタッフのほか、地域のケアマネジャー(介護支援専門員)、各サービス事業所、訪問看護ステーションのスタッフなどが一堂に集まり、情報を共有し、在宅療養の計画、問題点などを確認する。

 

退院後の生活を取り戻すために行う訪問リハビリテーション。

Plus顔写真2 訪問看護ステーションと並んで在宅療養を支える重要な部門が、八千代病院訪問リハビリテーション。理学療法士7名、作業療法士3名、言語聴覚士1名が勤務している(※)。
 理学療法士の深谷裕都が、ここに配属されたのは9年前。最初のうちは「一人で訪問したとき、患者さんが急変したらどうしようか」という不安があったというが、家族から感謝の気持ちや信頼を寄せられるうちに、リスクへの不安はいつしか、責任感に変わった。
150081 リハビリテーションは入院中の超急性期から始まり、急性期、回復期、在宅へと途切れなく続く。すなわち、発症間もない時期から在宅まで、患者のケアを繋いでいく重要な柱となる。そのなかで訪問リハビリテーションの役割は、どこにあるのだろうか。「生活を発展させていくこと」だと深谷はいう。「たとえ身体機能の向上が望めないにしても、外出できるようになる、趣味に取り組めるようになるなど、生活を広げていくことはできます。いつも生活に主眼を置いています」。
 深谷の根底には常に、利用者の人生への尊厳がある。「僕らは、その方が病気になって初めてお会いしますが、その方にはそれまでに築いた生活や家庭があります。病気になる前の利用者を理解し、尊重する気持ちを忘れずに持っていたいですね」。

※八千代訪問看護ステーションからの訪問リハビリテーションとの違いは、主に保険制度の違いである。八千代病院訪問リハビリテーションでは介護保険、八千代訪問看護ステーションでは医療保険によるリハビリテーションを提供している。

 

医療と介護の断層を作らないために。

150113 八千代訪問看護ステーションと八千代病院訪問リハビリテーションはともに、社会医療法人・財団新和会の在宅療養を支援する部門であるが、法人経営面からみれば、こうした部門は決して採算が見込める事業ではない。にもかかわらず、財団新和会では比較的早い時期(平成9年)に、訪問看護ステーションを開設、在宅医療支援に乗り出した。その意図について、松本隆利理事長はこう説明する。
 「前理事長の頃から、ケアマネジャーの資格を取ろうと職員みんなで勉強会を開くほど、熱心に在宅医療に取り組んできました。それだけ早くから高齢化の進展を予測し、地域医療に危機感を抱いていたのだと思います」。150238

 高齢化はどんどん進むが、その一方で医療費抑制のため、病院の病床数は削減される方向にある。「地域の患者を支えるには、在宅医療の強化しかない」という決断は、自然な流れだった。法人内には、訪問介護や訪問リハビリテーションなどの部門を開設。院内には、訪問リハビリテーション、回復期リハビリテーション病棟を整備し、急性期から回復期、療養期、そして在宅へと、患者を時間軸で支える一気通貫の体制を作り上げてきた。
 病院から在宅へ移行する「狭間」には、法律や保険の違いなど、さまざまな問題が複雑に絡み合って存在する。また、医療依存度の高い状態のまま退院する場合、医療から介護へと円滑な橋渡しが必要となる。さらに、高齢者の多くは複合疾患を抱えており、在宅療養中に急変し、入院が必要となることも多い。そうした多くの問題に、八千代病院は法人内の連携を駆使することで対応し、患者一人ひとりの病状や社会的背景に応じた在宅療養をしっかりと支えている。

地域にないものは自分たちで作り、そこからネットワークを広げていく。

150068 地域全体を見渡せば、医療と介護を繋ぐシームレスな体制はまだ実現しておらず、ところどころに“穴”が空いている状態だ。「地域住民にとっては、医療・介護・福祉の区別は関係なく、どんなときも必要なサービスを利用できる環境こそ必要。地域に足りないところを埋めていく役割を担いたい」と松本理事長は話す。  そのなかで、松本理事長が注視するのが、在宅診療を行うかかりつけ医の支援である。日々往診に駆け回るかかりつけ医だが、一人で24時間365日対応するのは不可能だ。また、急性増悪時の受け入れ病院を探すのに、かかりつけ医の多くが苦慮している。そうした問題を解決するために150100、同院は平成26年5月完成をめざし、100床(急性期60床・亜急性期40床/※病床区分についてはバックステージ参照)の増床計画を進めている。たとえば、在宅療養中の患者が急変したとき、看取りのために入院が必要になったとき、あるいは、家族の一時的休憩やかかりつけ医の休暇のために入院させたいときなど、さまざまなニーズに対応。病院の医療資源を在宅医療に役立てていく考えである。
 今後の課題は何だろうか。「まずは、訪問看護ステーション、訪問リハビリテーションのマンパワーを充実させるとともに、在宅医療支援において、法人内のネットワークを強化していきたいですね。さらに、地域の医療・介護・福祉施設の人たちとのネットワークも強化していきたい。当法人の閉じられた組織ではなく、医療と介護を繋ぐオープンな仕組みを作り、みんなで地域の高齢者の生活を支えていきたいと考えています」。
 団塊の世代が75歳を迎える2025年に向け、「急がず、柔軟に、できるところから着実に準備したい」と語る松本理事長。その根底には、地域に足りないもの、地域が必要とする医療や介護を提供していこうという、首尾一貫した思いがある。

 


 

columnコラム

●一般に、訪問看護はベテランでないと務まらないともいわれるが、八千代訪問看護ステーションには、経験豊富な看護師のほか、経験2、3年目の若い看護師も配置されている。「ベテランや若手、さまざまな世代が融合することで、多様な患者さんのニーズに対応するのが狙いの一つ」と松本理事長。さらに、法人内に急性期から療養期まで病床がそろっている利点を活かし、柔軟な人事異動で、適材適所を図っていこうとしている。

●八千代訪問看護ステーションの伊藤所長も、若い看護師の頑張りを評価する。「みんな楽しんで仕事してくれます。あとはいかにOJTで鍛えるか。日本訪問看護財団の教育プログラムも応用しつつ、人材教育に力を入れたい」と語る。看護は、患者の命を預かる仕事。一人ひとりの能力を高め、今後ますます増える医療依存度の高い患者をしっかり支えていこうとしている。

 

backstage

バックステージ

●患者の病態において、「急性期」は疾患の発症まもなく、積極的な治療が必要な時期。「亜急性期」は急性期を過ぎたものの、濃厚な医学管理が必要な時期を指す。これらの患者を受け入れる病床は従来、「一般病床」というくくりだったが、一律の人員配置・標準にするのは不適切という指摘もあった。そこで厚生労働省では病院・病床機能分化を進めるなかで、前述の二つに対応する病床を明確に分ける方向で議論を進めている。

●新病床区分については、名称も含めて、まだ正式には決まっていない。しかし、高度急性期を過ぎた患者を受け入れ、在宅・生活復帰支援を行う、あるいは在宅や施設の患者が急変した際、緊急で受け入れるような病床群は、今後の地域医療において必要不可欠であり、大いに期待される。八千代病院の増床計画は、そうした時代変化を見据えた先駆的な試みといえるだろう。

 


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