THE ZOOM 〜海部医療圏〜 編集協力:海南病院/津島市民病院/あま市民病院

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序章

愛知県の西端に位置し、津島市、あま市、愛西市、弥富市、大治町、蟹江町、飛島村から構成される海部医療圏(※1)。人口は約33万人。救急病院は、JA愛知厚生連 海南病院、津島市民病院、あま市民病院の3施設である。
この地域ではかつて、深刻な救急医療危機があった。津島市民病院とあま市民病院が著しい医師不足から医療機能不全に陥ったのである。その危機を乗り越えるために、地域の医療機関が自発的に動き、行政や大学が協力し、市民が立ち上がり、「地域医療を守ろう」という大きなムーブメントに発展した。
そして今日、厳しい苦難を地域全体の力で乗り越えた海部医療圏は、新たな課題に対峙している。それは、急ピッチで進む超高齢化の進展である。4人に1人が高齢者という社会のなかで、地域医療はどのように変革すべきか。明日に向かって挑戦を続ける病院や医師会などの取り組みを追った。

※1 海部医療圏は、二次医療圏(複数の市町村をまとめた地域医療の単位)の一つ。手術や救急などの一般的な医療は、この圏内での完結をめざしている。

 


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海部医療圏は下図に示した公立・公的3病院(海南病院、津島市民病院、あま市民病院)が中心となり、地域医療を支えている。
3病院がめざすのは、病院完結型医療ではなく、地域のすべての医療機関が手を結び、高度急性期から急性期、回復期、慢性期、在宅までの医療を切れ目なく繋いでいく〈地域完結型医療〉の提供体制である。
地域があたかも一つの病院のように機能し、地域住民の命と健康を守っていこうとしている。


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海南病院…海部医療圏唯一の三次救急医療機関。救急搬送件数は、年間6,718件(平成26年度)。海部医療圏全域はもちろん、三重県の北勢保健医療圏(四日市市、桑名市など5市5町で構成)などからも重篤な救急患者を積極的に受け入れている。

津島市民病院…津島市を中心に海部医療圏西部の二次救急医療をカバー。救急搬送件数は、年間4,000件を超える。市民に安心・信頼の医療を提供する、地域密着型の病院を志向している。

あま市民病院…医師不足ながら二次救急医療(昼間)に懸命に取り組む。同院で治療できない患者については、海南病院や津島市民病院、隣接する名古屋市の高度急性期病院に紹介している。

 

 

地域の生命の砦。
三次救急を担う新・海南病院

「コンパクト・高機能・次世代型」を新病院のコンセプトに掲げ、
今夏、診療棟全面オープン。

海南院長 愛知県弥富市にある海南病院は、三次救急(一刻を争う重症患者に対する救急医療)に対応し、高度で専門的な急性期医療を提供する〈高度急性期病院〉である。5年前から全面改築という大きなプロジェクトが進行しており、平成27年夏、診療棟が全面オープン、平成28年に全面竣工の予定である。
 「職員みんなの尽力のおかげで、思い描いていた新病院のカタチがほぼ実現しそうです」と語るのは、海南病院の山本直人院長である。新病院のコンセプトは、「コンパクト・高機能・次世代型」。建物の設計は、効率・スピード重視を基本とし、そこに最先端の医療機能を凝縮。地域の中核を担う次世代型の医療施設への発展をめざしている。
 新病院の目玉ともいうべき施設が、高度かつスピーディな診療環境を備えた救命救急センターだ。「設備環境さえ整えば、もっと救急患者さんを受け入れられるのに」。そんな職員たちの切なる願いを託して、新しい救急外来は最大10名の救急患者を受け入れられる広さを持ち、20床の救急専用病棟も整備された。救急搬送の受け入れ件数はセンター稼動前に比べ、20%以上アップするなど、その成果は、数字にも如実に現れている。
 また、屋上にはヘリポートが完備され、「地域中核災害拠点病院」の指定も受けた。すでに三重県などから、ドクターヘリで緊急患者が搬送される実績を重ねており、広域の救急医療を担う病院として活動を広げている。「海部医療圏を中心に、西は三重県北部や岐阜県の一部、東は名古屋市中川区・中村区まで含めたエリアを、当院の三次救急の責任医療圏と考え、救命救急センターとしての責務をしっかり果たしていきます」と、山本院長は語る。

これからも地域にないものを補完し、何があっても地域を守り抜く。

 「高度急性期病院として地域医療を牽引する」。そんな山本院長の決意は、新病院のさまざまなところに反映されている。心血管系、脳血管障害、重症多発外傷など、重篤な救急患者に最先端の医療を提供するために、手術支援ロボット・ダヴィンチSiや高度な画像診断撮影装置などを導入。その一方で、外来機能は地域の医療機関からの紹介患者を対象に絞り、高度な専門医療を提供する「高機能外来」を整備した。さらに付加機能として、通院治療センター、血液浄化センター、日帰り手術センター、内視鏡センターなどを揃え、在宅で療養しながら、高度な医療を継続的に受けられる機能を充実させた。
084_KainanB_2013 また、「地域がん診療連携拠点病院(※)」として、がん治療体制もいっそう充実。屋上庭園に面したやすらぎの空間に18床の緩和ケア病棟も整備した。通常、高度急性期病院は、ICU(集中治療室)など急性期治療のための病棟整備に全力を注ぐところだが、「緩和ケア病棟だけは外せない」と山本院長は考えたという。「今後の超高齢・多死社会を見据えたとき、緩和ケア医療が鍵を握ると思うんです。終末期の患者さんが尊厳を持って自分らしい時間を過ごしていただけるようにケアするとともに、地域の在宅医療チームと連携し、地域全体で質の高い緩和ケア医療を提供できる体制を作っていきたいと考えています」。
 いつも地域を見つめ、地域に足りない医療を届けてきた海南病院。高度な先端医療を提供すると同時に、在宅医療へ目線を広げ、自らに責務を課し、全うしようとしている。

※地域の医療機関と連携し、高度ながん医療を提供する病院。厚生労働大臣が指定する。


 

 

危機を乗り越え、
二次救急病院として再生した津島市民病院

「救急患者を決して断らない」をモットーに、
年間4,000件以上の救急搬送を受け入れる。

津島院長 海部医療圏の中央に位置する津島市民病院は、二次救急(中等症の患者に対する救急医療)を担う急性期病院である。一時期、深刻な医師不足から休日・夜間の救急医療に充分に対応できない状況であったが、大学や地域の病院、医師会、地元住民などの支援を受けて見事に復活。今では、年間の救急搬送受け入れ件数は4,332件(平成26年度)にまで上昇している。「当院ほどの規模で、4,000件以上という実績は、職員みんなの頑張りがあってこそ。とても誇りに思いますね」。そう語るのは、津島市民病院の松崎安孝院長である。
 津島市民病院では「救急患者さんを決してお断りしない」方針を基本に、院内の協力体制を強化。命に直結する重篤な疾患は海南病院に任せつつ、同院では地域で発症するコモンディジーズ(多くの人がかかる一般的な疾患)はできる限り受け入れ、質の高い急性期医療を提供している。「たとえば、小児科では週6日、小児科医が当直して救急にも対応しています。すべての診療科の専門医を毎晩待機させることはできませんが、できることから精一杯やっています」と松崎院長は言う。さらに平成27年4月から、「救急病床(救急受け入れに特化した病床)」も9床開設。一元的に救急患者を受け入れて集中管理できる体制を整えた。救急病床ができて、スムーズに患者さんを受け入れられるようになりました」と松崎院長は手応えを語る。

地域と繋がり、在宅医療をサポートする機能を強化。

 ここ数年来、医師の数も順調に回復してきた。常勤医は平成19年と比較すると1.5倍に増え、現在63名となっている。その背景には、研修医の育成に並々ならぬ情熱を注いできた成果がある。同院での初期臨床研修を希望した研修医のうち、約半数が2年間の研修を終えた後、同院にそのまま残り、後期研修医として入職しているのだ。「若い先生方から選ばれる病院になってきたことは本当に喜ばしい」と松崎院長は顔をほころばせる。
825105 今後の課題について尋ねると、「いろいろありますが、救急医療を含む急性期医療をしっかり担うと同時に、地域の在宅医療を支援することですね」という答え。なるほど同院では、ここ数年、在宅医療支援体制を次々と強化している。平成24年から、訪問看護ステーションの運営をスタート(津島市から市民病院に事業移管)。また、津島市の「在宅医療連携拠点推進事業(※)」を契機に、在宅療養中の患者を受け入れる「在宅医療支援病床」を開設。その他、障害児を持つ家族の介護疲れを軽減する目的で、障害児の短期入院も受け入れている。
 「地域包括ケアシステムの構築に貢献することが、これからの重要な方向性になると考えています。これまで以上に地域の方々としっかり繋がり、愛され、信頼される病院をめざしていきます」と、松崎院長は力強く語った。


※在宅医療連携拠点推進事業は、厚生労働省が進めるモデル事業。平成24年度から2年間、津島市が実施地域に認定され、医療と介護、福祉に関わる多職種のネットワークづくりに取り組んできた。


 

地域の病院との連携体制に力を注ぐ
新・あま市民病院

医師不足と闘いつつ、救急医療への貢献をめざしていく。

あま院長 あま市民病院は、海部医療圏の東部エリアを守る、唯一の急性期病院。前身は、あま市を構成する旧3町(七宝、美和、甚目寺)と大治町を母体とする公立尾陽病院で、平成22年3月、市制施行により、あま市民病院に改称した。
 あま市民病院も、津島市民病院と同様に、長年にわたり深刻な医師不足に苦しんできた。そして、それは今も続いている。あま市民病院の赤毛義実院長は、医師確保のために大学病院などを奔走しているが、すぐの赴任にはなかなか結びつかない。常勤医の不足を補うために、名古屋市内の高度急性期病院などから非常勤の医師の応援を得ている状況だという。しかし、それでも同院は「地域の救急医療のニーズにできるだけ応えたい」という思いを胸に、救急医療に取り組んでいる。「夜間・休日はなかなか難しいのですが、昼間は救急受け入れ100%をめざし、全職員が努力しています。当院で治療できない患者さんについては、津島市民病院や海南病院、そして隣接する名古屋市の高度急性期病院との連携で対応しています」と赤毛院長は語る。
 あま市民病院の救急医療の拡充は、海部医療圏に輪番制の救急医療を復活させる上で欠かせない条件でもある。「できるだけ早く輪番制に参加できるように体制を強化していきたい」と赤毛院長は言葉に力を込める。

地域のニーズにフレキシブルに対応し、アメーバのように進化したい。

あま市民病院_写真 慢性的な医師不足に悩むあま市民病院だが、ここにきて、好転の兆しが見えてきた。新病院の移転オープンを目前に控え、医師を募集したところ、内科系の医師の赴任が内定したという。「大変喜ばしいですね。新築移転を機に、医師をはじめとした職員の確保に弾みをつけたいと思います」と赤毛院長はほほえむ。
 新・あま市民病院は地下駐車場、地上4階建。現在地のすぐ近くに建設中で、平成27年11月に診療開始の予定だ。病床数は全部で180床。そのうち、135床を一般病床(急性期)、45床を回復期リハビリテーション病棟として機能させていく。新たに回復期の病床を開設した狙いはどこにあるのか。「今後重要なのは、病院から在宅への橋渡しです。急性期医療を提供すると同時に、急性期を脱した患者さんを受け入れ、積極的なリハビリテーションの提供により在宅復帰を支援することが、当院に課せられた役割だと考えました」と赤毛院長は説明する。ゆくゆくは、在宅療養中の急変時にいつでも入院できるような体制も整え、在宅医療支援機能をいっそう強化していく方針である。
 この他、新病院は近い将来、発生が危惧される東海地震への備えを設計に盛り込んでいる。洪水や津波による冠水の被害を免れるように、最上階に電気機械室、非常用発電機などを設置。海抜ゼロメートル地帯が広がる海部医療圏で最も陸側にある中核病院として、災害医療への貢献をめざしている。
 最後に赤毛院長にこれからの抱負を聞いた。「地域医療は今、大きな変革期を迎えています。そのなかで私たちは地域のニーズに応え、アメーバのように病院のカタチを変えながら発展をめざしていきたいと思います。〈地域医療を守る〉ために何をすべきか。常にその視点から発想していきます」。


 

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重要なのは、「人と人の絆」。
病院、医師会、行政、地域住民が手を繋ぐ。

「地域包括ケアシステム」の構築を見据えた、地域医療ネットワークの形成。

 上記で紹介したように、海部医療圏では3病院(海南病院、津島市民病院、あま市民病院)がそれぞれの使命を自認し、互いに役割分担することで、救急医療を含む高度急性期・急性期医療を支えている。3病院の結束は固く、救急医療、災害医療、感染症対策などについて、常に協議し合う良好な関係ができ上がっているという。
 しかし当然のことながら、地域医療は急性期だけでは終わらない。病院の入院治療から在宅医療へと患者一人ひとりをシームレスにサポートしていくことが重要だ。とくに、ここにきて、地域医療の提供体制は、病院での治療中心から在宅(患者の自宅もしくは施設)での療養を中心にする方向へと転換しつつある。その理由は、このまま高齢患者が増大すると、今ある病院では対応しきれず、医療費も膨大にふくれ上がるからだ。逼迫した医療保険財政を安定させるために、国は今、在宅で過不足なく医療、介護、生活支援などを提供できる「地域包括ケアシステム(コラム参照)」の実現をめざしている。
 こうしたなか、海部医療圏においても、高齢者が在宅で最期まで不安なく過ごせるような街づくりをめざし、さまざまな取り組みが展開されている。地域包括ケアシステムの実現には、組織や職種の異なる者同士の協力が前提となるが、この地域には、かつて救急医療崩壊の危機を、みんなの力で乗り越えた経験がある。そこで培われた「人と人の絆」を武器に、病院も診療所も地域住民も手を携えて、この地域に長寿社会にふさわしい街を作ろうとしている。

地域包括ケアシステムとは
団塊の世代が75歳を超える2025年に向けて、国が構築をめざす地域社会の仕組み。地域住民に、「医療・介護・予防・生活支援・住まい」の5つのサービスを一体的に提供。介護が必要になっても、一人暮らしの高齢者であっても、住み慣れた町に生活の拠点を置いて、安心して暮らし続けられる社会の構築をめざしている。

 

地域医療の最前線を担うかかりつけ医の使命
海部医師会+津島市医師会

診療所の医師が一次救急を積極的に担う。

 地域住民にとって最も身近な医療機関である、町の診療所。診療所の医師は患者の〈かかりつけ医〉として日頃の健康管理を担当し、高度な検査や治療が必要なときは病院を紹介。退院後は再び、療養を支えていく役割を果たす。さらに、海部医療圏では、診療所の医師が積極的に地域の一次救急(軽症者に対する救急医療)を担っている。海部地区・津島地区にそれぞれ「急病診療所」を開設。海部医師会・津島市医師会に所属する内科系医師が当番制で、平日夜間と休日の診療を行っているほか、外科疾患についても、外科系医師が順番に担当する体制を整えている(※1)。
 この取り組みは、海部医療圏の救急医療危機を機に始まったもので、病院への救急患者の集中を緩和することが目的。「この地域は医療資源が限られていますから、私たちができることは精一杯サポートしています。休日だけでなく、平日夜間も診療(※2)しているので、地域の皆さんに大変喜んでいただいています」と、海部医師会の下方辰幸副会長は語る。急病診療所が平日夜間の診療を開始して6年。今では、地域住民への周知も広がり、「平日夜間や休日に病気になったら、まずは急病診療所へ」という意識が浸透してきたという。

※1休日急病診療所では、歯科医師会の協力のもと、歯科診療も実施している。
※2 海部地区急病診療所にて、海部医師会と津島市医師会の医師が交代で診療。

訪問診療に取り組む診療所を増やしていく。

 海部・津島市の両医師会が目下、力を注いでいるのが、在宅医療の推進である。とくに津島市は愛知県の在宅医療連携拠点推進事業のモデル地区に選定され、医師会が中心となり、多くのノウハウを蓄積してきた。たとえばICT(情報通信技術)を活用し、在宅療養患者の情報を多職種で共有する「電子連絡帳システム」を導入したことも成果の一つ。津島市医師会の河西あつ子会長は「在宅医療チームのメンバーなら、誰でもいつでも情報が見られると好評です。このシステムを、海部医療圏全体へ広げていく計画を進めているところです」と語る。また、医師会では、愛知県が進める「在宅医療サポートセンター事業(※)」も進行しており、在宅医療支援の動きは活発だ。
 こうした行政や医師会の後押しを受け、訪問診療に積極的に取り組む診療所が年々増加しているという。「私たち診療所の医師にとって、在宅医療は避けて通れないと考えています。課題は、在宅の看取りにいかに対応するか。診療所の多くは医師一人なので、近隣の診療所同士が手を組んで、主治医・副主治医となるような仕組みが必要だと思います」と、河西会長。地域包括ケアシステムを見据えた挑戦は、今後ますます加速していく見通しだ。

※県内すべての医師会に在宅医療サポートセンターを配置し、在宅医療提供体制の整備を図っていく支援事業。

高齢患者の生活の質を高める歯科医の使命
海部歯科医師会+津島市歯科医師会

すでに始まっている訪問歯科診療。

 訪問診療というと内科系医師が行うイメージが強いが、実は歯科医に対する訪問診療の要望も非常に高まっている。近年では、訪問診療にふさわしい施設基準をクリアし、「在宅療養支援歯科診療所」の認定を受けた歯科診療所も徐々に増えつつある。
 「海部地区だけでも、昨年1年間で400件近い往診がありました」と話すのは、海部歯科医師会の加藤隆朗会長。具体的には、歯科医がポータブルユニット(持ち運び用治療器材)を持って、協力歯科衛生士とともに患者の自宅や介護施設などを訪問。虫歯の治療や入れ歯の調整・新製、口腔清掃などを行っているという。「健康な歯でしっかり噛めば、毎日の食事が楽しくなります。歯科医療を通じて、高齢患者さんの生活の質の向上に貢献していきたいと思います」と加藤会長は言う。
 また、「どの歯科医院に頼めばいいかわからない」という人のために、津島市歯科医師会では、「津島市訪問歯科医療連携室」を開設。希望する人に近隣の歯科医を紹介する仕組みも整え、在宅療養患者を支援している。

口腔ケアを行うことで、細菌による肺炎を防止。

 歯科医療の今後の課題は何だろうか。「高齢者の口腔ケアに力を入れることですね」と語るのは、津島市歯科医師会の平野真英会長である。高齢者にとって、口腔内の清潔は非常に重要。口腔内が汚れていると、細菌が唾液などと一緒に気管支や肺に入り込んで誤嚥性肺炎を発症しやすくなり、それが命取りになるケースもある。
 「今後、増加が見込まれる在宅療養の高齢患者さんの口腔ケアを行うために、歯科医師・歯科衛生士が行う専門的口腔ケアの充実、患者自身そして患者を支える家族、介護者による的確なセルフケアの実施が重要になってきます。また、多職種との連携を密にして、地域全体で取り組んでいかねばなりません」と平野会長。海部・津島市の両歯科医師会は、今後さらに多職種連携に力を入れ、高齢者の歯と口のケアに力を注いでいこうとしている。

薬の適正使用を促す薬剤師の使命
津島海部薬剤師会

病院、診療所と連携し、適正な薬物療法を提供。

 薬の処方は病院や診療所の医師が行い、調剤は近くの保険薬局で。そんな医薬分業のスタイルが全国的に普及。海部医療圏でも分業率は66.8%に達している(※)。医薬分業により、薬の処方と調剤は分離されたが、だからこそ重要になるのは、病院・診療所と保険薬局の連携だろう。海部医療圏ではどんな取り組みを行っているのか、津島海部薬剤師会の奥 健会長に話を聞いた。
 「3病院の薬剤師と保険薬局の薬剤師の主要メンバーが定期的に集まり、医薬品の適正な使用や服薬指導について話し合っています。たとえば、喘息治療薬の吸入方法が病院ごとに若干異なる場合、地域で統一していくなど、患者さんに適正な薬物療法を標準的に提供することをめざしています」。この他薬剤師会では、医師会や歯科医師会との連携、介護事業者との連携などにも積極的に取り組み、地域医療のなかで薬剤師の役割を追求しているという。

※平成26年3月診療分による算定結果。社会保険基金・広域連合調べ。

かかりつけ薬剤師制度の普及をめざしていく。

 これからの薬剤師は、どんな道をめざしていくべきか。「患者さん一人ひとりの〈かかりつけ薬剤師〉になることだと思うんです」と奥会長は話し、次のように続けた。「とくに高齢患者さんは複数の医療機関に通っていて、薬の重複や飲み残しも多くなります。そうならないように、かかりつけ薬剤師が患者さんの薬歴や体質を管理し、適切な調剤をしていくべきだと思います」。そして、その先に奥会長は、かかりつけ薬剤師が患者さん宅を訪問し、服薬管理をするような未来を思い描く。「薬剤師一人ひとりが積極的に在宅医療に参加し、〈顔の見える薬剤師〉、さらに〈心から信頼される薬剤師〉をめざしていきたいですね」。薬剤師も、在宅医療チームの一員。地域包括ケアシステムの構築に向けて、薬の専門家たちの意識改革が少しずつ、だが、着実に進行している。

「海部地域の医療と健康を推進する協議会」の取り組み。

 「海部地域の医療と健康を推進する協議会」は、病院同士の連携ネットワーク。設立のきっかけは、深刻な救急医療危機を乗り越えるために、3病院(海南病院、津島市民病院、あま市民病院)と津島市ががっちりスクラムを組んだことにある。平成22年の発足以来、3病院は常に地域医療を守るために話し合いを重ね、地域住民への啓発活動にも取り組んできた。
 この協議会の活動が周知され、平成27年度から、新たに7病院が参加メンバーに加わった。同協議会では今後、地域包括ケアシステムを念頭に置いて、病院同士がいかに役割分担して連携していくか、そして地域の在宅医療を支援していくかを協議していく計画だ。協議会の山本直人会長(海南病院院長)は、「全部で10病院のネットワークとなり、ここに地域完結型医療の提供体制づくりがさらに進むと思います。まさに、この地域の病院が手を結び、一つの病院のように機能していくことをめざしています」と、今後の展開に期待を込めている。

病院リスト

 

「海部地域医療サポーターの会」の取り組み。

 自分たちの手で地域医療を守ろう。そんな地域住民の自発的な取り組みを組織化したのが、「海部地域医療サポーターの会」である。発足のきっかけは、海部地域の医療と健康を推進する協議会主催のシンポジウム内で、協議会側から「地域医療を守り育てる活動に住民も参加してほしい」との呼びかけに応える形で発足。一人、また一人と、メンバーが増え、今では総勢30名を超す組織に成長した。
 代表の横井千恵子氏は、「20代の若い方から70代の方まで、いろいろな世代が集まり、とても活気づいています」と笑みを浮かべる。これまでサポーターの会では、『かかりつけ医を持ちましょう』という啓発ポスターを作成したり、医療者に患者・家族からの感謝の言葉を届ける『ありがとうカードとポスト』を3病院に設置してきた。また、病院にかかる際に役立つ情報をまとめた『知って安心・受診の心得』というお薬手帳サイズのミニパンフレットを作成。地域住民に配布し、限られた地域の医療資源を正しく利用することの啓発に努めている。
 そして現在、積極的に取り組んでいるのは、認知症や在宅医療などの知識を地域住民に広げていくこと。たとえば、メンバーの一人が認知症の母を看取った経験を基に紙芝居を作成。それを持って、民生委員や老人会、ケアマネージャーの会などで話して回っているという。「大切にしたいのは、住民の目線、住民の言葉。医療の専門家ではない住民が話すからこそ、伝わることを伝えていきたいですね」と横井代表は意欲を燃やしている。

 


 

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研修医教育から広がるこれからの地域医療の絆。

 「海部医療圏」特集の最後に、周辺地域を巻き込んで行われている画期的な研修医教育「木曽川メディカルカンファレンス(KMC)」について紹介したい。この試みの発起人は、名古屋大学大学院の安井浩樹准教授。安井准教授は、愛知県と三重県の県境にある木曽川河口周辺地域という生活医療圏に注目した。ここでは地域住民が県境を気にすることなく、必要な医療を求めてさまざまな病院を受診している。しかし、その自由な受診行動とは反対に、医療を提供する側の病院は、県域や系列大学の違いに縛られ、研修医教育についてもほとんど協力してこなかった。その旧体制に風穴を開けようと呼びかけたところ、周辺地域の病院が次々に賛同。海南病院、津島市民病院、いなべ総合病院、桑名市民病院(現・桑名西医療センター)、山本総合病院(現・桑名東医療センター)の5病院が参加し、平成22年6月にKMCが発足したのである(平成27年度より稲沢厚生病院と総合大雄会病院が加わり、合計7病院になった)。
 KMCは、各病院で別々に学ぶ研修医たちが出会い、知り合い、刺激を与え合う、共通の学びの場である。7病院の指導医たちが協力して、合同の講演会や参加体験型セミナー、交流キャンプ、症例検討会を企画し、定期的に開催している。その教育の成果は一朝一夕に得られるものではない。しかし、指導医や研修医の交流と協働、研修医の安定的な確保など、さまざまな側面で波及的効果を上げており、今後の地域医療ネットワークづくりに繋がる試みとして注目が集まっている。

医師教育を〈起爆剤〉として、
明日の地域医療を創造していきたい。

安井先生

 KMCの目標は、いい医師を育てることですが、その先にめざすところは地域医療の発展です。従来の地域医療体制には、長い歴史のなかでできあがった古い枠組みが残っています。その壁を壊し、より良い地域医療を構築するのは、新しい教育を受けた若い医師でないとできません。KMCの試みは、そんな地域医療の未来を創造するための〈起爆剤〉であり、〈種蒔き〉なのです。ここで出会った研修医たちが将来、大学医局や病院の枠を超えて、さまざまな場面で協働していってくれるのではないかと大きな期待を寄せています。

 

 

研修医

 


|Back Stage|


すでに共通認識が醸成された海部医療圏。
自治体のさらなるリードに期待。


 団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年を目前に控え、国は地域完結型医療の推進と、地域包括ケアシステムの構築を急務としている。地域完結型医療とは、病床機能を分類し、そのうえで病院間の連携により医療を提供するもの。地域包括ケアシステムは、中学校区に一つを目安に、新たなコミュニティを形成するというものだ。
 医療は、この二つの政策が重なったところに存在し、医療事業体・関係者の強固な関係づくりが求められている。とはいえ、異なる組織体が、その枠を超え協働体制を取るのは、現実的には、それほど簡単にできるものではない。
 だが、海部医療圏でいうと、協働体制の基盤は作られている。きっかけは救急医療不全という、当時の同医療圏には危機的事態ではあったが、それが故に、地域の医療を守り切るという共通認識が醸成されたのである。さらに貴重なことは、そこに生活者(サポーターの会)や教育機関が参加している点である。
 社会、そしてそのインフラである医療が、大きく変革しようとする今、医療の提供者と受益者が、同じ目線で将来を見つめることの重要性は言うまでもない。あとは、その推進役として自治体が明確に位置づき、地域全体の牽引役になることを願う。

 


Special Thanks to

 

株式会社海部調剤

株式会社スギ薬局

のぞみ薬局

株式会社浅井薬局

協和ケミカル株式会社

ハート調剤薬局

たんぽぽ薬局株式会社

株式会社ニチイ学館

株式会社ソフトウェア・サービス

サマンサジャパン株式会社

株式会社ソラスト

株式会社トーカイ

栄屋食品株式会社

JA海部東農業協同組合

いちい信用金庫

株式会社久米設計

清水建設株式会社

株式会社 中建設計

TSUCHIYA株式会社

株式会社日本設計

昭和建物管理株式会社

シダックスアイ株式会社

有限会社香取屋

株式会社ジーピーセンター

株式会社シティツアーズ

東洋ツーリスト株式会社

クローバーTV

株式会社アークライフ

株式会社ヤマグチ

ニッケゴルフ倶楽部

おつけもの若菜

いけす割烹 元海

旬菜家VOSGES(ヴォージュ)

POLA THE BEAUTY 蟹江学戸店

後藤自動車株式会社


 

発行日:2015年9月26日(土) 中日新聞朝刊