THE ZOOM 〜尾張中部医療圏〜 編集協力:済衆館病院

トップ見出し表紙


 


1見出し

少子超高齢化が加速しています。
人口が減少する一方で、高齢者の比率が一気に増えていく社会の到来です。
高齢者を支える医療・介護資源には限りがあります。
これからも私たちが「ずっと安心」して暮らすために、
さまざまな地域で、医療体制の変革が始まっています。
これからも住み慣れた町で暮らしたい…。そんな願いを叶えるために、
私たち自身にも、賢い医療消費者としての行動が問われます。
尾張中部マップイラスト













 

人口が減少局面に入り、
高齢化が一気に進みます。

グラフ1 右の棒グラフは、尾張中部医療圏の人口推移とそこにおける年齢構成を表したものです。
 2015年時点で、尾張中部医療圏の人口は166,637人(年齢不詳者を含む)。名古屋市に近接するロケーションの良さから、これまで一貫して増え続けてきたものが、2025年をピークに徐々に減少に転じます。一方、75歳以上の後期高齢者の割合は、2015年の10.0%が、2040年には14.2%に上昇。今後さまざまな支えを必要とする高齢者が増え続けるのに対し、それを支える就労人口が減っていくことを意味しています。まさに今後予想される少子超高齢化の進展への対応が急務です。

医療需要は伸び続け、
さらに介護需要は一気に高まります。

グラフ2 上の折れ線グラフは、尾張中部医療圏で、今後予想される医療と介護の需要の変化を2015年を100として表したものです。
 医療需要は、緩やかではあるものの一貫して伸び続け、それにも増して介護需要が一気に高まることが解ります。問題はこの需要の伸びに、医療・介護の供給が追いつくかです。人口動態からも解るとおり、就労人口が減ることによって、増え続ける高齢者を支える人材も、財源も減少するなかで、どのようにして伸び続ける需要に対応するか。小手先のやりくりではなく、抜本的に地域医療の提供体制や地域社会のあり方自体を、変革しなければいけない段階が迫っているのです。

自己医療圏だけでなく、
他の医療圏との連携が不可欠な地域です。

グラフ3 上の表は、尾張中部医療圏における病期ごとの患者発生数と他の医療圏との移動数を表したものです(1日平均)。
 同医療圏には、三次救急や高度急性期に対応する病院がなく、また二次救急や急性期に対応できる病院が限られるため、名古屋医療圏や尾張北部医療圏などに患者が流出しており、一方で慢性期については、比較的地域のなかで充足できている現状が見てとれます。これは、他の医療圏で高度急性期・急性期医療を受け、住み慣れた地域に戻るという流れができている証拠であり、また、自己医療圏だけで医療が完結せず、医療圏の垣根を越えた連携が欠かせない地域であることを示しています。

伸び続ける医療・介護需要に、
限られた資源で対応するために。

2-2 急速に進んでいく少子高齢化に対応し、限られた資源でいかに医療・介護を提供していくか。これは尾張中部医療圏だけでなく、実はこの国全体に突きつけられた課題です。
 国はこの課題の解決策として、地域完結型の医療提供体制をめざした地域医療構想と、地域包括ケアシステムの構築という方針を打ち出しています。一つの病院だけで医療を完結するのではなく、各医療圏の病院が機能を分担し、地域全体で効率的に医療を提供する体制づくりと、病気を抱えながらも在宅で多くの人に支えられながら療養できる社会環境の整備です。私たちLINKEDは、この解決策を実現するための鍵は、地域の医療機関同士が、医療をいかに効率的に〈繋ぐ〉ことができるかにかかっていると思います。2下見出し

 




 3見出し


この地域に不可欠な
二つの高度急性期病院の存在。

−−−−尾張中部医療圏に暮らす生活者に、2025年に向けた「わが町の医療」の実態や課題、取り組みをより深くご理解いただくために、皆さまにお集まりいただきました。まずは済衆館病院のお二人から、直江先生、末永先生の病院と、この医療圏との関係についてお話しいただけますか。
今村先生今村 はい。今、わが国では〈地域完結型医療〉が推し進められています。これは病床の機能を分類し、地域の病院がどこの機能を担うかを自院で決め、その上で病院同士が連携して、地域全体で医療を提供するというものです。
秋山 病床機能は、高度急性期・急性期・回復期・慢性期に分かれているのですが、尾張中部医療圏には、高度急性期機能を持つ病院がありません。そのため地理的に近く、高度な診療能力を有する名古屋医療圏の名古屋医療センター、尾張北部医療圏の小牧市民病院が、三次救急、高度急性期治療を担ってくださっています。
直江 確かに当院には、尾張中部医療圏から救急搬送される患者さん、あるいは医療機関からの紹介状をお持ちになる患者さんは多いですね。特に清須市や北名古屋市の方々がいらっしゃいます。
末永 当院には、北名古屋市や豊山町からの方が多いですね。今、三つの医療圏が出てきましたが、これは行政的な面から決められたもので、住民の方々はそのとおりに動くとは限りません。ご本人の希望もあるし、受診した医療機関のネットワークにもよる。ある一定数の患者さんが、両病院に訪れるのではないかと思います。
直江 そうですね。元々、尾張中部医療圏には限られた医療資源という、地域の事情があります。それを考えると、地域完結型医療を求められても、パーツが揃わなければ完結するのは難しい。その欠けた部分を、他の医療圏であっても、サポートすることは必要不可欠なことであるととらえています。秋山先生
今村 私たちの地域にとって、両病院の存在はとても大きいんですね。大きいからこそ、地域から患者さんを送る際には、本当に高度急性期治療を必要とする方を、きちんと見極めることが大切だと考えています。他の医療圏の貴重な資源を使うわけですから。
秋山 そういう意味では、当院は、トリアージ(重症度・緊急度の選別)能力を高めることに力を注いでいます。治療が当院で可能か、不可能か。それを行うことは、地域で希少な二次救急病院として、また、急性期病院としての役割であると考えています。
末永 地域の二次救急病院、急性期病院が機能を強化してくださると、私たち高度急性期病院の機能も、停滞することなく活かすことができますね。



高度急性期病院の悩み、
それをどう解決するのか。

−−−−今は高度急性期病院への入口のお話でした。今度は出口、つまり高度急性期病院を退院した後についてお聞かせいただけますか。
直江 正直に申しますと、その部分では苦しい面があります。というのは、高度急性期病院は、極めて高次の診療能力を発揮し、短期間で患者さんを治すことを国から求められています。そのためには、人材も施設・設備も、その充実・高度化に全力を注いでいます。ちなみに、今、当院の平均在院日数は約14日ですが、診療能力の面でいうと、これをもっと短くすることは可能です。しかしながら、短くできません。なぜなら、当院での治療によって重篤な状態は脱し直江先生左、病状は落ち着いても、患者さんがすぐに在宅に戻るのは難しい。増加する高齢患者さんはほとんどがそうです。継続的な医学管理を受けつつ、在宅復帰に向けて準備をする期間が必要なんですね。言うまでもなく、これは尾張中部医療圏からの患者さんに限った話ではありませんが。
末永 当院も同じです。重症患者さんを受け入れることを使命として、職員にも奨励しています。でも、いや、だからこそ、ずっと入院していただき、見続けるわけにはいかない。高齢の患者さんは増えていますからね。直江先生もきっと同じだと思いますが、医療従事者ならば、患者さんが本当に回復するまで、この目で確かめたい。しかし、病院の機能を分け、連携により効率的に医療を提供するという、地域完結型の医療制度ではそれができません。
−−−−解決策はないのですか?
直江 一番良いのは、急性期や回復期の機能を持つ病院に、転院していただくことですね。もっといえば、高度急性期以外の機能を、総合的に持っている病院がふさわしい。患者さんの回復に従って、ある時期は濃厚な医学管理をする、それが過ぎたら本格的な社会復帰への道筋をつけていく。それができる病院です。ただ、本当にその能力を持っている病院は、それほど多くはありません。
末永 済衆館病院は、まさにそうしたスタイルですね。これはやはり今日の医療のあり方を見つめての方向性ですか?
今村 はい、そうです。患者さんの立場になると、医療資源が少ない地域だからこそ、さまざまな病期に対応できるスタイルの病院が必要だと考えました。
直江 そのとおりですね。在宅医療を担う診療所群があるとすると、一方で、高度急性期を担う病院群がある。この両者の繋ぎ役は、患者さんにとって貴重な存在です。
末永 診療所群も高度急性期病院群も、その繋ぎ役がいないと、両者が非常に不安定な状態になりますからね。診療所があり、それを繋ぎ役の病院がバックアップし、その病院を高度急性期病院がバックアップする。強固な連携によりしっかり繋がることが大切ですね。



地域のハブ病院があってこそ、
明日の地域社会が見えてくる。

−−−−地域完結型医療とともに、地域包括ケアシステムの構築が進められています。この地域ではどのような状況でしょうか。
秋山 地域包括ケアシステムは、高齢になり病気を抱えても、住み慣れた地域で暮らせる新たなコミュニティを作ろうとするものです。医療・介護から見ると、在宅医療が最前線となりますが、全国と同じく、私たちの医療圏も資源は限られており、医療と生活を繋ぐ機能も潤沢とはいえません。
直江 これには制度的な問題もありますね。医療と介護とでは、そもそも保険が違いますから。また、システム全体では、福祉の要素も必要となる。その上での総合的なネットワークを、いかに地域に作るかですね。末永先生
末永 尾張中部医療圏は、歴史的に医療資源が少ないといわれていますが、逆説的にいうと、少ないからこそ、地域でネットワークを作る努力をずっと続けてきたと、私は見ているのですが、実際にはいかがですか?
今村 はい、おっしゃるとおりです。現在は、西名古屋医師会の先生方が頑張ってくださっていて、地域包括ケアのネットワークづくりに、力を入れてくださっています。
末永 それはいい。意識の高い先生方です。
直江 私たち高度急性期病院は、病気を治すことに力を入れています。しかし、高齢者に対しては、もちろん重篤な場合は治すことが必要ですが、どちらかというと、生活することへの力点が大切です。済衆館病院は、在宅医療支援という意味で、その両方への視点を持っておられますね。
秋山 はい、まだ充分ではない部分も多いですが。
末永 2016年に設置された地域包括ケア病棟は、診療所の先生や訪問看護ステーションにとっては、心強いものだと思いますよ。在宅で急性増悪された方を診てもらえるのですから。
今村 その機能・役割が大切だと認識しています。住民の方にも、在宅医療従事者の方にも、当院のリソース(資源)を、在宅医療に活用していただきたいと考えます。
末永 地域の情報は、地域にあります。それを診療所や在宅介護事業所、そして、地域の中核となる病院が共有し、そこでの連携関係を構築する。まずそれが第一歩ですね。ただそこには、地域住民の方々の意識も不可欠です。三者が同じ方向を向いてはじめて、その地域なりの形ができる。換言すると、ネットワークづくりとは、地域としてのあり方を見つめることだと思います。
直江 ハブ機能としての病院があるといいですね。
末永 そのとおりです。そうしたハブ病院があると、私たち高度急性期病院もありがたい。高次の診療活動だけに特化できますからね。超高齢社会の地域医療は、人も、情報も、仕組みも、単独では機能できません。繋いで、的確な方向に向けていく。それが担えてこそ、地域の中核病院に位置づくことと考えます。
今村 そのためにも、今後、地域の皆さんとの会話をもっと深めていきたいと考えます。
−−−−皆さま、貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。



 

高度急性期と在宅の間を支える機能CHECK01

3-3 ポストアキュートとは、急性期経過後に引き続き入院医療を要する状態を指します。
 現在、効率的な医療提供の観点から、高度急性期医療を提供する病院には入院期間の短縮が強く求められており、急性期を脱した患者に早期退院を促す必要があります。ただ疾患によっては、まだ充分に症状が安定しないため、在宅医療に繋ぐまでの間に、総合的な医学管理や高度なケアの実践能力を持ち、じっくり在宅復帰を準備できる機能が不可欠です。

CHECK02
3-4 サブアキュートは在宅や介護施設などで症状が急性増悪した状態を指します。
 今後、私たちには病気を抱えながらも、自宅や介護施設などで療養することが求められます。ただ、安心して療養生活を送るためには、症状が急に悪化したときに、速やかに入院を受け入れてくれ、また必要に応じてより高度な急性期医療に繋いでくれる、急性期・救急対応能力を持った、駆け込み寺のような機能の整備が必要です。

CHECK03
ZOOM_3 病気を抱えながらも、安心して自宅や介護施設などで療養するためには、24時間365日、多くの専門職の支えが必要です。そのため、各地域でかかりつけ医や訪問看護ステーションの看護師などが中心となり、多職種での情報共有と連携を図る努力がなされています。しかし、地域の人材が限られている現状のなかでは、症状の重い患者への対応や休日や夜間等、対応することが困難な時間帯を、地域の病院が在宅医療・介護従事者や施設と連携し、自らの医療機能を、地域全体で活用し、支えていく体制づくりが必要です。

CHECK043-6 地域のなかで、比較的人材や専門的な知識・ノウハウ、医療機器や就労支援システムなどといった医療資源を、潤沢に有しているのが病院です。今後、患者の療養の場所が、病院から在宅に移行することを考えたとき、地域のなかで奮闘する在宅医療・介護従事者や施設に対して、病院の有するそれらの資源を開放、地域医療・介護者を支援し、一体となって、地域医療・介護の質の向上や効率的な提供体制の構築をめざす枠組みが重要です。

 

 


 

 

表4見出し

前田先生リード

前田医師会長 高齢化の加速により、当地域の在宅医療・介護需要は急速に伸びることが予想されています。こうした未来においても、地域の人々が安心して暮らし続けるためには、在宅医療に関わる、かかりつけ医、訪問看護ステーション、介護系施設、そして病院などが、それぞれの機能を高め、ネットワークを形成することが必要です。
 西名古屋医師会では、かかりつけ医の日常的な全身管理能力を高めるために、月1回、会員医師に向けて、疾患・ケアに関する勉強会を開催。自身の専門分野以外を学ぶ機会を設けています。また、在宅医療の提供体制を強化するため、2015年4月からは愛知県医師会の補助事業として、「在宅医療サポートセンター事業」を開始しました。「在宅医療サポートセンター・中核センター」を済衆館病院内に設置し、常駐する当会の職員が、在宅医療・介護に関する相談対応、コーディネートを行っています。また、在宅医の開拓・育成、多職種の交流会・合同勉強会を通じて、在宅医療ネットワークを強化する活動も始めています。
 当会の地域には、高度急性期を担う病院がありませんが、かかりつけ医を中心に、地域の医療・介護・福祉機関が連携し、日常的な健康管理をする。そして、いざというときには済衆館病院を中心とした地域の病院と連携し、地域の皆さんの安心な暮らしを支えていきたいと思います。

表4イラスト図


 


 

|Back Stage|


鍵を握るのは、〈ネットワーク〉と〈ハブ機能〉。
地域住民には、当事者意識に基づく理解と行動が必要。


 地域医療連携では、よく〈顔の見える関係〉という言葉が使われる。その意味は、単なる顔見知りから、相手の立場を理解し協業相手として認識する関係まで幅広い。大切なのは、患者に対して、同じ価値観を持ち、同じ方向に考えられるかどうかだ。
 そうした視点から尾張中部医療圏を見ると、二つの作用が働いている。一つは、〈ネットワーク〉づくり。地域の医療機関が連携の重要性を認識し、西名古屋医師会に〈病院有床診療所部会〉を設置、診療所と病院の会話が進み始めた。
 二つには、〈ハブ機能〉の構築。高度急性期医療を他の医療圏に委ねる本医療圏では、地域で作られたネットワークと高度急性期病院との結節点が重要である。また、そこで治療を終えた患者を、今度はネットワークを活かし、最終着地点である在宅まで結び付けなければならない。現在では、急性期以降の病期を広くカバーする中核病院がその担い手となり、ハブ機能を果たす動きが顕在化してきた。
 尾張中部医療圏は、確かに医療資源が豊富ではない。だがそれ故に動き出したネットワークづくりとハブ機能の構築により、地域医療の一つのロールモデルができあがろうとしている。そうした医療圏の動きを、住民は当事者意識を持って理解し、正しく利用することが不可欠と考える。

 


Special Thanks to

 

シダックスアイ株式会社

星光ビル管理株式会社

百五銀行

カネコ株式会社

協和医科器械株式会社

たんぽぽ薬局株式会社

中部メディカル有限会社

株式会社ビー・エム・エル


 

発行日:2017年3月31日(金) 中日新聞朝刊