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お産難民を作らないために
「最後の砦」としての役割を担う。

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Episode 01 /

当直医2名体制でハイリスク分娩に備える母体胎児センター

エピソード2_1.jpg 「先生、妊娠30週の患者さんが出血し、救急搬送されてきます」。この夜、当直室で仮眠をとっていた母体胎児センター長の戸田 繁医師は、看護師からの連絡で目を覚ました。
 戸田医師は簡易ベッドから跳ね起きると、もう一人の当直医とともにすぐに患者さんを迎える準備を整えた。まもなく搬送されてきた患者さんに超音波検査を行うと、子宮と胎盤の間に大きな血の塊ができている。胎盤早期剥離である。赤ちゃんを助けるには、一刻の猶予も許されない。直ちに緊急帝王切開を決定し、手術室と新生児集中治療室(NICU)に連絡。全身麻酔で執刀開始。そのわずか2分後、手術室には赤ちゃんの元気な声が響いた。母体も無事である。医師、看護師らは胸をなでおろすとともに、赤ちゃん誕生の喜びを分かち合った。
エピソード1_1.jpg 戸田医師はこうした当直を月に平均6回こなしている。安城更生病院が「総合周産期母子医療センター」になってから、産科医療を担う母体胎児センターの当直は医師2名体制となった。そのハードな任務を、産婦人科医12名が交代でこなしている。当直中の睡眠時間は平均4時間程度だ。「肉体的にはきついですが、圧倒的にやりがいがありますから…」と戸田医師は笑みをこぼす。「やはり産科はハッピーなんです。新しい命が生まれるところに立ち会えて、ご家族が感動されているところに居合わせることができる。自分がきちっとやった仕事がご家族の幸せに繋がるという手応えがありますね」。

Episode 02 /

妊産婦死亡を減らしたい。
安城更生病院が取り組むセンター化と地域連携システムづくり。

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 日本における妊産婦死亡率は極めて少ない(平成22年は出産10万対4.5/厚生労働省)。しかし、それでもお産は母親にとって、命がけであることに変わりはない。現在でも、羊水塞栓症、分娩時大量出血、前置胎盤・胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)などで命を落とす人がいるのも事実だ。
 「総合周産期母子医療センターを作ろうと考えた大きな動機の一つが、母体の命を守ることにあるんです」と語るのは、総合周産期母子医療センター長の松澤克治医師である。「かなり以前ですが、私自身、不幸な事例を経験しました。他の医院で出産した患者さんの出血が止まらず、当院に搬送されてきたんですが、命を救うことができなかったんです。もう少し早く搬送され、治療できていたら…、と非常に悔やまれました。出産した母親が亡くなると、ご家族はもちろん、我々医療者も奈落の底へ落とされたような気持ちになります。それから、こういう悲劇はどうしても防ぎたい、という思いを強く持つようになりました」。
 松澤医師の思いを反映し、総合周産期母子医療センターは「スピード」最優先の動線が設計されている。一刻を争う場合も素早く治療を開始できるよう、救命救急センター(ER)、母体・胎児集中治療室(MFICU)、手術室などが、垂直の動線で結ばれ、エレベーターで即座に患者さんを運ぶことができる。MFICUのベッドも6床に増やした。「おかげで、母体搬送要請へのお断り件数が、年間数えるほどに減りました」と松澤医師は満足げに語る。
 しかし、ここまで備えていても、満床で受け入れられないこともある。そのとき、どうするか。そこで、安城更生病院がかねてより力を入れてきたのが、地域の母体搬送システムづくりだ。総合周産期母子医療センターの開設と同時に「周産期医療ネットワーク協議会」を発足。西三河南部を中心とした周産期医療に関わる9病院・19施設(産婦人科医院・助産院)が集まり、緊密な連携関係を築いてきた。「当院が満床の場合、近隣の病院にお願いしたり、反対にリスクの低い患者さんに転院していただくことで、MFICUの病床を確保するなど、ハイリスク分娩を引き受けるために日々努力しています」と松澤医師は説明する。地域の限られた医療機関が連携することで、二次・三次の医療機能を相互補完し合う有機的なシステムが確立されようとしている。

Episode 03 /

医師不足、劣悪な労働環境、高い訴訟リスク…。
産科医療を取り巻く多様な問題。


エピソード3_1.jpg 総合周産期母子医療センターを中心に、地域医療ネットワークを築いている西三河地域。しかし、この体制は全国どこでも実現しているわけではない。
 妊婦救急搬送の受け入れ先が見つからない、言わば“たらい回し”問題が注目されたのは、平成18年、奈良県で起きた妊婦死亡事件が契機だった。その後も救急搬送の遅れから死産になったケースや妊婦死亡のケースがマスコミで報道され、大きな社会問題に発展した。
 それから数年経った今も、周産期医療を取り巻く環境は決して良いとはいえない。産科・産婦人科を標榜する医療施設は、1980年代以降、一貫して減少している。その結果、分娩可能な施設の多い地域と少ない地域が生まれ、地域格差が問題になっている。また、厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、平成12年から22年の10年間で、産婦人科・産科医は407人減少している。さらに、医療訴訟の件数が、他の診療科に比べ、抜きん出て高いという特徴もある。少産少子化や患者の権利意識の高まりを背景に、医療訴訟件数が増えているのだ。そうした社会的風潮に、戸田医師は危機感を抱く。「訴訟を怖がれば、踏み込んだ治療ができません。訴訟リスクが、治療に最善を尽くそうとする医師のモチベーション低下につながると思います」。
 訴訟リスクや激務から、産科を志す医学生が減り、その結果、医師不足が進み、ますます勤務環境が劣悪になる。産科医療は「医師不足、過重労働、訴訟リスク」という負の連鎖に陥っているのだ。


Episode 04 /

医療は、人があってこそ。
働きやすい環境を整え、この地域の周産期医療を守り抜く。


エピソード4_1.jpg 厳しい環境のなか、地域の周産期医療を支え続ける安城更生病院。今後の課題はなんだろうか。「今は地域医療ネットワークがうまくいっています。でも、周辺の市民病院のなかで、分娩業務を休止する病院が出てきており、不安要素もいろいろあります。また、医師不足は当院も例外ではなく、ギリギリの状態で頑張っています。人材の確保が課題ですね」と松澤医師は言う。
 総合周産期母子医療センターでは近年、女性医師が増えてきた。「女性医師は意識も高く、優秀です。そういう人たちが結婚・出産後も負担なく働けるような病院にしたいと思っています。やはり、病院は“人があってこそ”なんです。働きやすく魅力的な環境を整え、いい人材を集めていく。その努力が、地域の周産期医療を守ることにつながります。この地域に、お産難民だけは作りたくないですからね」。松澤医師は力強い口調でそうしめくくった。

COLUMN /

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●「安城更生病院は、我々の命綱」と語るのは、地域の一次診療を担う岡村産科婦人科の岡村 誠院長。「母児の救命が必要なお産を受け入れてもらえるので、安心です」。

もう一つ、岡村院長が頼りにしているのは、24時間態勢で医師と看護師が現場に向かう新生児専用ドクターカー「きらり」だ。「以前は救急搬送する途中で、赤ちゃんの容態が急変することもありましたが、今は安城更生病院の小児科医がここで診てくれる。そのメリットは計り知れません」と微笑む。産婦人科診療所が通常分娩を受け持ち、ハイリスク分娩や新生児のリスクは安城更生病院が引き受ける。この役割分担が、西三河南部地域の周産期医療を支えている。

BACK STAGE /

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日本における周産期死亡率は過去数十年の間に大きく減少し、今や世界トップレベルとなっている。妊産婦死亡数の激減により、いつしか我々は「赤ちゃんは元気に産まれて当たり前」という安全神話をもつようになった。そのため、不幸な事故が起きると医療過誤とみなされ、訴訟件数も多い。しかし、実際は妊娠・出産は常に危険を伴うものであり、だからこそ、そこに医師が存在している。

●近年、出産前の妊婦検診を受けない「未検査・未受診分娩」が増え、問題になっている。安城更生病院でも年間数件はあるという。それも一つには、安全神話を信じているからではないか。「お産は危ないもの」という意識を持つことが、周産期医療に対する評価と信頼向上につながるのではないだろうか。


ACCESS /

愛知県厚生農業協同組合連合会
安城更生病院
〒446-8602 安城市安城町東広畔28番地
TEL 0566-75-2111
FAX 0566-76-4335
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