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救急車は断らないという医療提供をモットーに
地域住民の医療ニーズに応えながら
経営改善を図ることは自治体病院の使命でもあった

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Episode 01 /

特色が薄かった病院を、
糖尿病と腎臓病から手始めに抜本的に改革。


IMG_6461.jpg 「満遍なく医療が提供されているが、特色が薄い病院でしたね」。春日井市民病院の渡邊有三院長は、赴任当初の同院をこう振り返る。名古屋大学医学部附属病院第三内科で臨床研究を続けていた渡邊が、新しい病院へと生まれ変わる春日井市民病院への赴任を打診されたのは平成9年のこと。医局長時代から関連病院の実力や問題点、近隣病院との競争などの状況を把握していただけに、「特色のある医療も展開したいな」と感じたという。近隣には大病院もあるが糖尿病や腎臓病を専門とする医師が少ない事に着目し、その対策を考えながら赴任を決意した。
 最初の仕事は自分の専門である内科の立て直しと、研修医募集であった。内科系の臨床で、先進的かつ科学的な根拠に基づいた医療を実践できる土壌を養成するには、臨床医としての見識が高い仲間と、それに続く若い力が不可欠だと感じた渡邊は、糖尿病と腎臓病への造詣が深い医師2人と共に赴任し、専門診療のみならず若手研修医の募集と教育にも精力的に働きかけた。
 3人は当初から “地域の高齢化”を肌で感じるとともに、大学病院では診た事もないような糖尿病合併症を持つ患者の多さに驚いた。春日井市は名古屋市に隣接し古くからベッドタウンとして発展してきたが、今後、急速に高齢化の進む団塊世代を抱える高蔵寺ニュータウンを有していた。糖尿病専門医も手薄であり、住民への啓発活動だけでなく、地域の実地医家との連携が重要だと気付いた。腎臓病に関しても、透析寸前で紹介される症例が多く、腎不全早期からの積極的な対策の必要性を痛感した。そこで、実地医家との連携・勉強会を発展させるとともに、院内では診療科の枠組みを超えたチームプレーに力を入れた。「糖尿病や腎臓病は高齢者に多い疾患です。高齢者に多いということは、合併症として心血管疾患や脳血管疾患も多い。そのため、糖尿病や腎臓病の内科的治療だけでなく、血管外科や眼科、整形外科、循環器内科、神経内科とのチームプレーによる合併症に対する早期の対策を図るよう努力しました。各診療科にはコアとなる医師も次々と大学から派遣されました」。
 このような地道な努力の結果、春日井市民病院には徐々に医師が集まるようになった。赴任当時70名ほどだった医師は、現在120名を超えるまでに増加。こうした医師の充実を背景に、効率的な急性期医療の中味が実現した。それを示すものに、DPC(※コラム参照)への移行期に用いられる「調整係数」がある。調整係数とは、DPC導入時における病院収益の激変緩和の観点から整備されたもの。同院はそれがほぼ0%であり、つまりは、国が標準とする急性期医療のモデルに近い医療を実施していることを表している。

Episode 02 /

「機能評価係数Ⅱ」を基準に
医療の高度化を進めると同時に経営の黒字化を達成。

 総務省から地域医療再生計画が指示され、春日井市民病院が推し進めた改革の中で特筆すべきは、DPC導入を契機に経営改善を成し遂げたことだ。総務省から経営改善を指示された当時、わが国の病院は軒並み赤字転落の状況であり、立ち去り型医療崩壊が声高に叫ばれた時代でもあった。春日井市民病院とて同様で、新病院の負債償還も含め、病院経営は危機的な状況まで追い込まれていた。赤字体質が続けば、どれだけ崇高な理念を掲げても何もできない。医療機器の更新もままならない。地域住民からの誹りも免れられない。そこで、院内会議を通じて病院財政の実態を全職員に説明し、「患者さんに余分な負担をかけずに、病院経営をどう改善するか」を全職員で討議し、その目標に向かって全職員一丸となって努力した。
 改善の指針に掲げたのがDPC「機能評価係数Ⅱ」の向上であった。この機能評価係数とは、病院が持つ公的な医療機能を評価する基準のこと。同係数には「Ⅰ」と「Ⅱ」があるが、さまざまな資格を病院が有することで改善が期待できる「機能評価係数Ⅱ」をめざすことを病院は決定した。一方、機能評価係数Ⅰについては、「春日井市民病院では、『調整係数ほぼ0%』という数値で示されたように、平成21年のDPC導入時には既に無駄な医療資源を使わない合理的な医療が実施されていたと自信を持ってよいのです」と説明した。
 「機能評価係数Ⅱ」の評価基準となる項目は、病院が地域基幹病院としてどのような役割を果たしているかを調査するものであり、総合医学管理加算算定を目指し、医療連携システムを利用して実地医家との連携を今まで以上に高める事に成功した。その後、災害拠点病院、愛知県がん診療拠点病院、また、今年になって念願の地域医療支援病院の認定と、資格取得はトントン拍子に進んでいる。渡邊は、「これらの勲章は、春日井市民病院が地域の急性期病院として特化し、慢性期医療は連携入院施設ならびに介護施設、在宅医療支援センターなどと連携している事の証です。この機能評価係数Ⅱの条件を満たすことにより、無駄な経費を増やすことなく、医療の標準化と同時に経営の黒字化を達成できました」と話す。春日井市民病院が実施してきた地域医師会との連携や、病病連携会議と称する地域の亜急性期病院との連携が有効的に作用しているようである。

Episode 03 /

“断らない救急” を支える地域の医師との強固な連携。


春日井修正.jpg 春日井市民病院では、“断らない救急”をモットーにし、愛知県下でも一、二を争う年間約9000台の救急搬送を受け入れている。ただ、急性期医療に力を入れれば、必然的に“出口”の問題が生じてくる。問題を解決するためには、退院後の医療を支える地域の医療機関との連携が不可欠だ。
 基幹病院だけでは地域医療は守れない。患者を囲い込み、規模の拡大を図ることで、収益の確保をめざす病院なども見られるが、その過程で淘汰された地域の医療機関が廃業に追い込まれる状況が生まれてしまう。地域の基幹病院だけが生き残りを図れば、結果的に地域医療を崩壊させてしまう矛盾を生んでしまいかねない。
 春日井市民病院では、元々地域の連携に力を入れてきた歴史がある。渡邊も「赴任当初に驚かされたのは地域医療連携の強さだった」と述懐する。春日井市民病院では、平成7年ごろから、病診連携会議の実施や地域の医師を招いた院内勉強会などが積極的に行われてきた。開放型病床も7階病棟に併設された。さらに春日井市民病院が強化した糖尿病や腎臓病診療は地域との連携が不可欠なものだった。長い年月をかけて醸成されてきた春日井市民病院と春日井市医師会との強固なつながりが、渡邊が推進する院内改革やDPC導入を契機に着実に実を結びつつある。


Episode 04 /

市民の自立を促しながら安心して暮らせる地域をめざす。


IMG_7948.jpg 目下、視線の先は在宅医療や終末期医療をどうすべきかに向けられている。「今後は地域に共生する医療機関があり、それを補完するホスピス、介護福祉施設などがある。そんな体制を地域で構築していかないといけないと痛感しています」と渡邊は話す。
 地域医療のあり方を突き詰めていけば、最終的には「市民自らの力」が大切だといえるかもしれない。自分の健康状態や生活習慣、死の迎え方に至るまで、自分自身を今一度直視し、地域全体で無駄な医療を行わないという価値観を共有していくことが重要だ。
 「病気を治すのはあくまで患者さん本人の生命力」と力説する渡邊。「医療というのはあくまで支えるもの。補助的な手段にすぎないのです。無駄な医療にお金を使うのは良くないこと。日本の医療制度を崩壊させないためにも、自分たちの老後について一人ひとりの国民が考えていかないといけない。大切なのは自立することだと思います」。
 超高齢化の進展を見据えながら在宅医療や終末期医療のあり方を考え、地域医療機関の医師たちと連携することで、自立した市民が安心・安全に生活できる環境を作っていく。そんな理想の地域医療をめざして、渡邊の奮闘は今後も続いていく。

COLUMN /

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●DPCとは、「Diagnosis Procedure Combination」の略で、医療費の定額支払い制度に使われる評価方法とその制度のこと。日本語では診断群分類包括評価と呼ばれ、患者が何の病気であったかによって診療報酬が決まる制度を指す。従来までのような治療にどれだけの費用がかかっていたかで報酬が決まる出来高払い制度とは対照的な制度で、さまざまなメリットがあると期待されている。

●従来の出来高払いでは、医療行為が多ければ多いほど診療報酬が増えるため、早く回復すればその分支払いが減るという大きな矛盾をはらんでいた。定額支払い制度が導入されることで、早期回復に対する患者側と医療側との利害が一致し、無駄な医療の提供が軽減され、より効率的な医療が行われることが予想される。また、従来の診療では採算割れの傾向が強かった急性期病院でも、経営的な安定を図ることができるのも大きなメリットだ。

BACK STAGE /

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●地域の基幹病院の使命は、地域医療を「点」で考えるのではなく、「面」で捉えることにある。早期退院にインセンティブが発生するDPC導入が今後も進んでいけば、基幹病院は急性期に特化した医療を行い、急性期を脱した患者は、積極的に地域の医療機関に任せていくといった地域ぐるみでの分業体制が不可欠となってくるのは間違いない。

●ただ、地域の医療機関との連携体制は、一朝一夕で構築できるものではない。春日井市民病院が、長年にわたる勉強会やカンファレンスで地域のドクターとの交流を深めてきたように、基幹病院が地域と共生する姿勢を示し、地道な活動を通じた信頼関係の構築を行うことが地域医療を支える大きな力となる。今後は、基幹病院を中心とした医療機関、ホスピス、介護福祉施設などとの“連携力”が、地域医療の大きなカギを握るといえるだろう。


ACCESS /

春日井市民病院
〒486-8510 愛知県春日井市鷹来町1丁目1-1
TEL 0568-57-0057
http://www.hospital.kasugai.aichi.jp/LinkIcon