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感染制御の伝統と、国公立大学附属病院
感染対策協議会の事務局として得た経験を活かし、
地域の感染対策ネットワークの核に。

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Episode 01 /

院内の感染を予防し、
拡大を防止するICT(感染制御チーム)。

200453.jpg 『入院患者が結核集団感染、3人死亡』『病院でインフルエンザ集団感染、2人死亡』『生体肝移植を受けて入院中だった患者が多剤耐性緑膿菌(りょくのうきん)に感染、1人死亡』—院内感染に関わるこうした報道が駆け巡るたびに、一般住民はもちろん、医療関係者も大きな衝撃を受ける。感染症とはウイルスや細菌などの病原体が侵入することで引き起こされる疾患の総称であり、病院内で患者やその家族、医療従事者が病原体に感染して広がる現象を院内感染という。
 院内感染の発生を予防し、拡大を防ぐために、多くの病院ではICT(感染制御チーム: Infection Control Team)が組織されている(※)。ICTは一般に医師・看護師・臨床検査技師・薬剤師・事務職員など多職種から構成され、診療科横断的な活動を展開している。
 院内感染対策の第一は、予防の徹底だ。感染症の有無にかかわらず、すべての患者に適用する「標準予防策」を習慣的に行うと同時に、空気・接触・飛沫感染の各感染経路をシャットアウトする感染経路別予防策を行う。感染対策の第二は、院内に感染症が発生したとき、その拡大の防止に努めることである。検査室などで監視すべき病原菌が検出された場合、ICTが評価し、対応策を立案して現場に適用していく。そこで感染症の拡大を防止できれば良いが、それでも感染症が広がり、アウトブレイク(同じ感染症が通常予測される症例数より多く発生する現象)が起きたら、病院全体で対策を講じなくてはならない。病院長に連絡した上で各部門の代表者が集結して議論し、入院停止、病棟封鎖などの対策を決定する。事象を正確に評価し、どの程度の体制で対処するか決断することが重要なポイントとなる。

※施設によって名称は異なり、小規模な病院では感染対策委員会がICTを兼ねていることも多い。

Episode 02 /

院内感染対策と国公立大学附属病院の
連携の“要”を担う。

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 名大病院では中央感染制御部が中心となり、多職種からなるICTを率いて、先に述べたような院内感染対策を徹底して行っている。「当院の感染対策はある程度のレベルまで達しましたが、感染管理認定看護師(ICN)も感染制御医師(ICD)も不足しており、決してベストではありません。院内感染は決してゼロにはならないし、私たちの努力は限りなく続きますね」。そう語るのは、感染対策のマネージメントを任されている中央感染制御部の部長・八木哲也医師(教授)である。
 中央感染制御部のもう一つの大きな機能は、国公立大学附属病院感染対策協議会の事務局機能である。この協議会では作業部会、専門職部会、事業、ワーキンググループに分かれ、さまざまな活動を行っている。そのうち事業については、主に「感染対策相互チェック」と「改善支援調査」がある。「感染対策相互チェック」は、参加施設同士がお互いの現場をチェックし、感染対策の質を評価するもの。2施設がペアになって、対象施設のマニュアルや会議議事録などをチェックするとともに、平時の活動内容を評価し、報告書を提出している。「改善支援調査」は有事の際の相互支援だ。ある施設でアウトブレイクが起きたとき、要請を受けて選抜メンバーが現場に出向いて状況を検証・解析し、収束に向けて助言を行う。
200145.jpg こうした活動と並んで重要な取り組みとして、八木医師は「感染症の診療支援」を挙げる。「感染症は基本的に治る病気ですが、高齢の方や免疫力の弱い方が増え、感染症が複雑化しています。“せっかく手術が成功しても院内感染で命を落とした”ということがないように、しっかり治療しなくてはなりません。それは、感染源対策にも繋がっています」。「感染症の予防・拡大防止と感染症診療の両面を充実させることで、質の高い院内感染制御が実現できる」というのが、八木医師の基本的な考え方だ。
 このように全国の国公立大学病院同士が手を結び、感染対策に努めるとともに、感染症診療の面でも連携することで、感染制御の質の向上と標準化を推し進めている。

Episode 03 /

課題は医療資源の不足。
感染制御医師を育て、地域の中核病院へ。

名大中面修正.jpg ひと昔前に比べ、進化したように見える院内感染対策システム。しかし、近年は、ほとんどの抗生物質が効かない新型の多剤耐性菌が出現するなど、院内感染への対応はさらに難しくなっている。感染制御の強化をめざし、感染制御医師、感染管理認定看護師、感染制御専門薬剤師、感染制御認定臨床微生物検査技師などの認定制度はできたが、まだまだ専門家が育っていないのが実情だ。
200109.jpg この背景には、感染制御の歴史の浅さがある。日本の医療現場では長きにわたって感染リスクが軽視されてきた。感染症管理は1980年代から欧米で進歩し、それを学ぶ形で日本でも普及してきたところなのだ。急務の課題は人材の育成である。医育機能を担う大学が感染制御医師を積極的に育て、地域の中核病院へ送り出していくことが必要だ。さらに感染制御医師のキャリアサポートも必要だろう。この課題について、八木医師は、名古屋大学大学院医学研究科で感染統御学を教える立場から、学生の関心が高まってきたことを実感するという。「ただ、臨床の技能の一つとして学びたい人が大半です。それも大事なことですが、今後は “感染制御の看板”を背負って立つような人材を育てていきたい」と抱負を語る。


Episode 04 /

地域ぐるみで感染制御の質を高めていくために。

903053.jpg 感染制御医師の育成を積極的に推進する名古屋大学。その取り組みには、平成24年度診療報酬改定が大きな追い風となりそうだ。今回の改定で、充実が求められる分野の一つとして「感染症対策の推進」が挙げられており、感染症対策に取り組む施設がいっそう評価されるようになったからである。さらに今回の改定では、個々の施設の活動だけでなく、施設間が連携して感染防止に取り組むことが推奨されている。
 こうした経緯から、名大病院の中央感染制御部においても、三つ目の機能として今後は「地域連携の中核機能」を果たしていきたい考えだ。「私たちの培ってきた経験を示し、地域ぐるみで平時の感染制御を固めると同時に、アウトブレイクしたときの改善支援にも取り組んでいきたい」と八木医師は意欲を燃やす。これまでの病院個々の取り組みが横軸に繋がりだした。そのネットワークを進化させる上で、名大病院に期待される役割は大きい。感染対策への気運が高まるなか、名大病院は地域連携の核となり、強いリーダーシップを発揮していこうとしている。


COLUMN /

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●名大病院は国内で初めて院内感染対策組織を創始した。院内感染対策チームICTは、中央感染制御部ができる以前の平成4年に組織され、20年にわたる活動を続けてきた。

●名大病院は、平成12年に発足した国立大学附属病院感染対策協議会(平成23年度、国公立大学附属病院感染対策協議会と改称)の立ち上げに尽力した。当時、国立大学病院でも病院内感染患者の発生動向が同じ基準で集計されておらず、病院環境に合わせた感染対策のガイドラインもなかった。大学病院が主体的に感染対策に取り組み、その質を上げていきたいという、同じ志を掲げる全国の先生とともに活動し、協議会の設置を提案。その活動が実を結び、文部科学省の新規事業として発足された。感染対策に率先して取り組んできた伝統は、今も脈々と受け継がれている。

BACK STAGE /

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●名大病院をはじめ、地域の基幹病院の感染制御はかなり充実してきたが、それは豊富な医療資源に支えられているからとも言える。たとえば、中小の病院や介護・福祉施設などでは、人材も設備も不足している。そのため感染予防と言っても、患者の痰、排泄物を扱うときは手袋をするなど、標準予防策を徹底するしか手がないのが実情だ。

●感染症にかかりやすい高齢患者が急増するこれからの時代、感染制御がさらに重要になる。医療や介護の現場に必要な人材や設備を整えると同時に、現場のスタッフ自身も今まで以上に感染症及び感染予防に対する正しい知識を学び、見えない細菌に立ち向かっていかねばならないと言えるだろう。

ACCESS /

名古屋大学医学部附属病院
〒466-8560 名古屋市昭和区鶴舞町65番地
TEL 052-741-2111(代)
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/LinkIcon